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事業再構築補助金は、新分野展開、事業転換、業種転換、業態転換、又は事業再編という思い切った事業再構築に意欲を有する中小企業等の挑戦を支援する補助金です。
中小企業の場合、最大1億円が補助されるため注目度が高いものの、いざ申請しようとすると「自社の事業が申請可能であるか」「どうしたら採択されるか」といった疑問や不安が出てくるのではないでしょうか。
そこで本記事では、農業にフォーカスを当てて採択事例・採択のポイントを解説します。
事業再構築に向けた事業検討のポイント
事業再構築補助金で採択されるためには、ポストコロナ・ウィズコロナ時代の環境変化を受けて「自社の強みを活かしてどのような新しい価値を生み出せるか」を検討し、その内容をしっかりと事業計画書に記載することが重要なポイントとなります。
事業計画への落とし込みまでは、次の3つのフェーズに分けて考えていきます。
- 事業再構築の必要性確認
- 有望な事業テーマの選定
- 事業計画の具体化
各フェーズでの事業検討のポイントについては、以下の記事で詳しく解説しています。あわせてご確認ください。
解説!飲食業における事業再構築補助金の採択事例及びそのポイントとは
農業における事業再構築補助金の採択事例とポイント
ここからは、事業再構築補助金 第10回公募の採択事例のうち、農業の採択事例を用いて事業計画書の記述例を解説します。自社の強みを明確にし、他社との差別化を図ったうえでターゲット顧客に訴求することが、採択のための大きなポイントとなります。
※以下の内容は、事業計画書作成ガイドブックをもとに(株)Staywayにて作成しています。実際の事業計画とは異なります。
有機野菜を加工・製造する食品製造業への事業再構築
※事業計画書作成ガイドブックおよび事業再構築補助金 第10回公募結果をもとに、(株)Staywayが作成
事業概要
既存事業はコスト高により収益性が低下し、人手不足により事業拡大の見込みも低い。そこで、キッチンカーを利用した食品製造業に事業転換することで、商品の付加価値を高め、収益性向上と事業規模拡大を実現する。
既存事業 | 有機野菜の栽培 |
再構築の背景 |
コスト高による収益性低下、人手不足による事業拡大の見込み低下 |
再構築の概要 |
有機野菜を加工・製造する食品製造業への事業再構築 |
事業再構築の方針決定
事業の外部環境が大きく変化するなか、需要を捉えて、自社の強みや特色を生かしてありたい姿に近づくための施策となる取り組みを、事業再構築の方針として決定します。
<記述例>
これまで実施してきた有機野菜の栽培といった強みを活かし、キッチンカーを利用した食品製造業への事業転換で売上のV字回復を図る
<解説>
新たに行うキッチンカー事業の展開は、統計上、採択の有望度「中」のテーマとされています。ただし、その分競争が激しくなるため、自社固有の強みを活かし、参入障壁に対処することが求められます。
記述例の場合、今後の成長市場という市場機会と、これまでに蓄積したノウハウといった強みにより、事業の成功確度を高め、勝ち筋を見出せていると考えられます。
なお、農業を営む事業者による食品販売に関して注意すべき点があります。公募要領内に、以下に該当する場合は補助対象外となる旨の記載があるため、新たな事業検討の際はご注意ください。
農業を行う事業者が単に別の作物を作る、飲食店が新しく漁業を始めるなど、新たに取り組む事業が1次産業(農業、林業、漁業)である事業
※主として自家栽培・自家取得した原材料を使用して製造、加工を行っている場合は 1 次産業に該当します。ただし、同一構内に工場、作業所とみられるものがあり、その製造活動に専従の常用従業者がいる場合に限り、2 次又は 3 次産業に該当する場合があります。
※例えば農業に取り組む事業者が、同一構内の工場において専従の常用従業員を用いて、農作物の加工や農作物を用いた料理の提供を行う場合など、2 次又は 3 次産業分野に取り組む場合に必要な経費は、補助対象となります。2 次又は 3 次産業に取り組む場合であっても、加工や料理提供の材料である農作物の生産自体に必要な経費は、補助対象外となります。
新たな製品/サービスと実現する強み
再構築後の事業の新たな製品やサービスの実現確度を高めるために、今後強みとなる製品・サービスの特色を具体的に記述します。
<記述例>
試行販売にて、〇食分を完売したことから製品の販売需要を確認
<解説>
あらかじめ試行販売を行い、実際の顧客ニーズを確認していることで、商品の販売実現性が高いと判断できます。
目標設定と投資対効果の検証
ここでは事業再構築に際して、事業の特性に応じた目標設定と投資対効果の検証などを記載します。
<記述例>
・食品販売にて単価〇円の商品を月間〇食販売、既存事業で〇円の売上を見込む
・設備投資額は回収期間が〇年と算出
<解説>
売上の因数分解、特に既存・新規の取引先別の算出により、審査員は説得力のある数値目標を確認できます。また、キッチンカーをはじめとする設備投資額の具体的な回収計画が記載されていることからも、事業計画の信ぴょう性が高いと判断されやすくなります。
実行可能な計画の策定
事業再構築の構想を具体的な計画に落とし込み、目標達成への見通しを細かく記載します。競合との差別化や新たな強み獲得等、課題/リスクと解決策まで含めて計画に織り込みましょう。
<記述例>
資金調達については、支援機関かつメインバンクである金融機関から支援を頂く旨の内諾が得られている
<解説>
支援機関のコメントにて資金調達の承諾がとれていることで、審査員は実行可能な計画であると判断できます。
業種固有観点
さらに、業種固有観点として、市況も踏まえて事業活性のための取り組みやその重要性などを記載します。
<記述例>
有機食材・地元食材を購入したいニーズを 持つターゲット顧客に対し、地元の有機野菜の商品である点を差別化ポイントとして訴求
<解説>
競合が多い飲食業において、ターゲット顧客のニーズに対する自社の強みを明確にして訴求することで、事業性の高い計画と判断できます。
規格外鶏卵を使用したスイーツ製造・販売の新展開
※事業計画書作成ガイドブックおよび事業再構築補助金 第10回公募結果をもとに、(株)Staywayが作成
事業概要
スイーツ需要にパティシエや規格外鶏卵が活用できる自社の強みを踏まえ、素材や材料の品質を重視したスイーツ等の製造を行い、店舗及びECサイト等にて販売を行うことで、利益率や収益性を高める。
既存事業 | 養鶏場経営 |
再構築の背景 |
利益率・収益性の低下 |
再構築の概要 |
規格外鶏卵を使用したスイーツ等の製造、店舗販売及びEC販売 |
事業再構築の方針決定
事業の外部環境が大きく変化するなか、需要を捉えて、自社の強みや特色を生かしてありたい姿に近づくための施策となる取り組みを、事業再構築の方針として決定します。
<記述例>
パティシエや規格外鶏卵が活用できる自社の強みを踏まえ、素材や材料の品質を重視したスイーツ等の製造を行い、店舗及びECサイト等にて販売を行う
<解説>
新たに取り組む小売業による事業再構築補助金への申請においてスイーツの製造販売・EC関連事業は、統計上、採択の有望度「高」のテーマとされています。
そのため競争は激しくなりますが、高まるスイーツ需要に対して自社パティシエや規格外鶏卵の活用を自社の強みである点が明記されています。
新たな製品/サービスと実現する強み
再構築後の事業の新たな製品やサービスの実現確度を高めるために、今後強みとなる製品・サービスの特色を具体的に記述します。
<記述例>
試行販売にて、〇食分を完売したことから製品の販売需要を確認
<解説>
事前に試行販売を行い、実際の顧客ニーズを確認していることで商品の販売実現性が高いと判断できます。
目標設定と投資対効果の検証
ここでは事業再構築に際して、事業の特性に応じた目標設定と投資対効果の検証などを記載します。
<記述例>
市場の金額、顧客数の分析をもとに顧客当たりの単価が向上していることに着目し、新市場の確からしさを検証
<解説>
市場分析を行い、売上の因数分解とトレンドを踏まえた設定により、 説得力のある数値目標を確認できます。
実行可能な計画の策定
事業再構築の構想を具体的な計画に落とし込み、目標達成への見通しを細かく記載します。競合との差別化や新たな強み獲得等、課題/リスクと解決策まで含めて計画に織り込みましょう。
<記述例>
・ 2023年6月 EC販売システムの導入
・ 2023年9月 店舗業務支援プログラム開発
・ 2023年12月 製造工場設立・稼働
<解説>
3ヶ月単位で計画とマイルストンを整理しており、 実行スケジュールが明確になっています。
業種固有観点
さらに、業種固有観点として、市況も踏まえて事業活性のための取り組みやその重要性などを記載します。
<記述例>
人手の作業で〇日かかるリードタイムを受注から発送までの〇〇作業を自動化することで〇日へ短縮
<解説>
新たに取り組む小売業における人手不足に対し、IT活用による大幅な効率化で新たな付加価値を構築します。
まとめ
今回は、事業再構築補助金における農業の採択事例や採択のポイントを解説しました。ポイントをしっかりとおさえた申請で、採択の可能性を高めましょう。
「自社の事業が申請可能であるか」「どうしたら採択されるか」といった疑問や不安をお持ちの方は、ぜひ、本記事をご参照ください。
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