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国や自治体がさまざまな助成制度を打ち出すなか、雇用・労働環境の改善を目的とした設備投資に使える助成金があります。
人手不足が深刻化する昨今、優秀な人材の確保や生産性向上のためにも雇用・労働環境の改善が欠かせません。
そこでこの記事では、雇用・労働分野の助成金のうち労働条件等に関する助成金に焦点を当てて、設備投資にも活用できる助成金を紹介します。
助成金とは
まず、国や自治体による事業者に対する主な支援制度支援制度のひとつに、助成金と補助金が挙げられます。
これらは混同されがちですが、管轄や支援内容に違いがあります。ここでは、助成金と補助金の違いについて解説します。
助成金と補助金の違い
助成金と補助金の主な違いは下表のとおりです。
助成金 |
補助金 |
|
主体 |
厚生労働省 |
経済産業省 |
目的 |
雇用維持 |
設備投資 |
金額 |
数十万円程度 |
数十万~数億円 |
経費 |
定め有・無 |
定め有 |
支給 |
後払い |
|
返済 |
不要 |
|
難易度 |
易しい |
易~難 |
(株)Stayway作成
助成金は厚生労働省が主体となり、雇用維持や働き方改革など、主に雇用や労働に関して助成を行います。
一方、補助金は経済産業省や各省庁などが、設備投資や販路開拓など事業に直接関連する取り組みに対して補助するものです。
申請者が受給できる金額の範囲は、助成金の多くは数十万円程度ですが、補助金では数十万円から数億円と金額に開きがあります。また、経費に関する定めの有無も異なります。
そのほか大きな違いとして、受給の難易度が挙げられます。助成金は、指定された要件を満たせば受給できる可能性が高く、所定の様式に従って申請を行うことで原則、給付されます。
しかし、補助金はあらかじめ採択件数や予算額が決まっているため、申請しても受給に至らない場合があります。採択率は補助金により異なりますが、40%~50%程度が多く見受けられます。
なお、助成金・補助金ともに支給のタイミングは後払いであり、返済は不要です。
労働条件等関係助成金の全体像
雇用・労働分野の助成金は、「雇用関係助成金」と「労働条件等関係助成金」の2つのカテゴリーに大別されます。
本記事ではこのうち、主に中小企業事業主が対象となる「労働条件等関係助成金」について解説します。
労働条件等関係助成金には、次に挙げるA~Hの8種類があります。
A 生産性向上等を通じた最低賃金の引上げを支援するための助成金:業務改善助成金
B 労働時間等の設定改善を支援するための助成金:働き方改革推進支援助成金
C 受動喫煙防止対策を支援するための助成金:受動喫煙防止対策助成金
D 産業保健活動を支援するための助成金:団体経由産業保健活動推進助成金
E 安全な機械を導入するための補助金:高度安全機械等導入支援補助金
F 高齢者の安全衛生確保対策を支援するための補助金:エイジフレンドリー補助金
G 個人ばく露測定定着促進のための補助金:個人ばく露測定定着促進補助金
H 退職金制度の確立等を支援するための助成金:中小企業退職金共済制度に係る新規加入等掛金助成
参照:厚生労働省 令和6年度雇用・労働分野の助成金のご案内(簡略版)
設備投資につかえる主な助成金
A~Hの助成金の多くが設備投資に活用できますが、比較的助成額が高く、特におすすめの助成金について解説します。
業務改善助成金
業務改善助成金は、事業場内で最も低い労働者の賃金(事業場内最低賃金)を引き上げ、生産性向上に資する設備投資等を行う中小企業事業主に対して助成を行うものです。
事業場内最低賃金を一定額以上引き上げ、機械設備やPOSシステムといった設備投資などを行った場合にかかった費用の一部を助成します。
・助成率:設備投資等に要した費用の3/4~9/10
・助成上限額:引き上げる賃金額および引き上げる労働者数に応じて30万円~600万円
※要件により変動します。
参照:厚生労働省 令和6年度雇用・労働分野の助成金のご案内(簡略版)
なお、次の参照ページでは、製造業における業務改善助成金の具体的な活用事例が紹介されています。本記事とあわせてご参照ください。
働き方改革推進助成金
働き方改革推進助成金は、4つのコースで構成されています。いずれも外部専門家によるコンサルティングや労務管理用機器等の導入等にかかる経費を助成するものです。
業種別課題対応コース
令和6年4月から時間外労働の上限規制が適用された建設事業、自動車運転の業務、医業に従事する医師、砂糖製造業(鹿児島県・沖縄県に限る)に対する助成を行います。
労働時間削減等に向けた環境整備に取り組むことを目的として、外部専門家によるコンサルティング、労務管理用機器等の導入等を実施し、改善の成果を上げた事業主を支援します。
・助成率:3/4
※事業規模30名以下かつ労働能率の増進に資する設備・機器等の経費が30万円を超える場合は4/5を助成
・助成上限額:成果目標の達成状況に基づき、最大470万円
※一定要件の場合、最大480万円加算
参照:厚生労働省 働き方改革推進支援助成金(業種別課題対応コース)
労働時間短縮・年休促進支援コース
労働時間削減、年次有給休暇や特別休暇の取得促進に向けた環境整備に取り組む目的で、外部専門家によるコンサルティング、労務管理用機器等の導入等を実施し、改善の成果を上げた事業主に対して、その経費の一部を助成するものです。
・助成率:3/4
※事業規模30名以下かつ労働能率の増進に資する設備・機器等の経費が30万円を超える場合は4/5
・助成上限額:成果目標の達成状況に基づき、最大250万円
※一定要件の場合、最大480万円加算
参照:厚生労働省 働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)
勤務間インターバル導入コース
「勤務間インターバル」とは、勤務終了後、次の勤務までに一定時間以上の「休息時間」を設けることです。
本コースは、この勤務間インターバルを制度として導入し、定着を促進することを目的としています。
外部専門家によるコンサルティング、労務管理用機器等の導入等を実施し、改善の成果を上げた事業主に対して、 その経費の一部を助成します。
・助成率:3/4
※事業規模30名以下かつ労働能率の増進に資する設備・機器等の経費が30万円を超える場合は4/5を助成
・助成上限額:インターバル時間数等に応じて、 ①9時間以上11時間未満 100万円、②11時間以上 120万円 など
※一定要件の場合、最大480万円加算
参照:厚生労働省 働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース)
団体推進コース
中小企業の事業主団体において、傘下企業の労働時間削減や賃金引上げに向けた生産性向上に資する取組に対して、その経費を助成するものです。
・助成率:定額
・助成上限額:500万円
※都道府県またはブロック単位で構成する中小企業の事業主団体(傘下企業数が10社以上)の場合は上限額1,000万円
その他助成金
ここでは、労働条件等関係助成金のうち、既述の「業務改善助成金」「働き方改革助成金」を除く助成金について紹介します。
受動喫煙防止対策助成金
労働者の健康を保護する観点から、事業場(既存特定飲食提供施設)における受動喫煙を防止するための効果的な措置を講じた中小企業事業主に対して、その経費の一部を助成します。
喫煙専用室や指定たばこ専用喫煙室の設置・改修に必要な経費が対象となります。
・助成率:2/3 ※飲食店以外は1/2
・助成上限額:100万円
団体経由産業保健活動推進助成金
独立行政法人・労働者健康安全機構が主管し、中小企業や労働保険の特別加入者を支援する団体等が傘下の中小企業等に対し、産業医、保健師等の専門職の他、産業保健サービスを提供する事業者と契約し、産業保健サービスを提供した際にその費用の一部を助成するものです。
令和5年10月より、助成率・助成上限額等が拡充されました。
・助成率:産業保健サービス提供費用の9/10
・助成上限額:500万円 ※一定の要件を満たした団体は1,000万円
参照:独立行政法人・労働者健康安全機構 団体経由産業保健活動推進助成金
高度安全機械等導入支援補助金
近年の技術の進展に伴い開発されている安全機能を有する車両系建設機械等を導入する中小企業に対して、必要となる費用の一部を助成。
・補助率、補助上限額:補助対象経費の1/2または安全装置ごとの上限額のいずれか低い方の額
エイジフレンドリー補助金
60歳以上の高年齢労働者に特有の労働災害被災リスクを低減するための設備の改善等、高年齢労働者を含むすべての労働者の転倒防止・腰痛予防のための運動指導等および高年齢労働者を含むすべての労働者の健康保持増進のための取組に要する経費の一部を助成します。
【高年齢労働者の身体機能の低下を補う設備・装置の導入その他の労働災害防止
対策に関する経費】
・補助率、補助上限額:間接補助対象経費の1/2または100万円のいずれか低い方の額
【転倒防止や腰痛予防のための運動指導等に関する経費】
・補助率、補助上限額:間接補助対象経費の3/4または100万円のいずれか低い方の額
【コラボヘルス等の労働者の健康保持増進のための取組に関する経費】
・補助率、補助上限額:間接補助対象経費の3/4または30万円のいずれか低い方の額
個人ばく露測定定着促進補助金
個人ばく露測定の普及定着を図るために、リスクの高い作業を行う中小企業事業者に対し、リスクアセスメントの一環として実施する個人ばく露測定および技術上の指針等に基づき適切な呼吸用保護具を選択するために実施する個人ばく露測定に要する費用の一部を助成するものです。
・補助率:個人ばく露測定の実施のために要する額(消費税は除く)の1/2
・補助上限額:①対象事業場数は2,000事業場、②補助額の上限は1事業場あたり5万円
中小企業退職金共済制度に係る新規加入等掛金助成
独立行政法人 勤労者退職金共済機構が運営する中小企業退職金共済制度に新たに加入する事業主等に対して掛金の一部を助成するものです。退職金共済制度ごとに次の助成が行われます。
一般の中小企業退職金共済制度に係る掛金助成
中小企業退職金共済制度に新たに加入する事業主や、掛金月額を増額する事業主に対して、その掛金の一部を新規加入掛金助成、掛金月額変更掛金助成として助成します。
【新規加入掛金助成】
①対象労働者の掛金月額の1/2(労働者ごとに上限5,000円)を、事業主が中退共制度に新たに加入してから4か月目より1年間控除
②1週間の所定労働時間が同じ事業所に雇用される通常の労働者と比べて短く、かつ30時間未満の短時間労働者について、特例掛金月額(掛金月額が2,000円・3,000円・4,000円のいずれか)が適用されている場合は、①の控除額に、掛金月額が2,000円の場合は300円、3,000円の場合は400円、4,000円の場合は500円を上乗せした額をそれぞれ控除
【掛金月額変更掛金助成】
対象労働者の掛金月額の増額分(増額前の掛金月額と増額後の掛金月額の差額)の1/3の額を、増額した月より1年間、増額後の掛金月額の納付額から控除(増額前の掛金月額が18,000円以下の場合に限る)
参照:厚生労働省 中小企業退職金共済制度に係る新規加入掛金助成及び掛金月額変更掛金助成
建設業退職金共済制度に係る掛金助成
建設業退職金共済制度に新たに加入する事業主または既に加入している事業主に対して、対象労働者が建退共制度の被共済者となった月から12か月相当分の掛金額(日額320円)のうち50日分の納付を免除します。
参照:厚生労働省 令和6年度雇用・労働分野の助成金のご案内(簡略版)
清酒製造業退職金共済制度に係る掛金助成
清酒製造業退職金共済制度に新たに加入する事業主または 既に加入している事業主に対して、対象労働者が清退共制度の被共済者となった月から12か月相当分の掛金額(日額300円)のうち60日分の納付を免除します。
参照:厚生労働省 令和6年度雇用・労働分野の助成金のご案内(簡略版)
林業退職金共済制度に係る掛金助成
林業退職金共済制度に新たに加入する事業主または既に加入している事業主に対して、対象労働者が林退共制度の被共済者となった月から12か月相当分の掛金額(日額470円)のうち62日分の納付を免除します。
参照:厚生労働省 令和6年度雇用・労働分野の助成金のご案内(簡略版)
まとめ
雇用・労働分野の助成金について、設備投資にも使える助成制度を中心に解説しました。
雇用確保や雇用環境改善の実現を目指している場合は、ぜひ、助成金の活用もあわせてご検討ください。
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