カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略とは?重点14分野と期待

公開日 2022/02/16
更新日 2022/02/16
この記事は約6分で読めます。

世界各国が真剣に取り組んでいる「カーボンニュートラル」とは、二酸化炭素など温室効果ガスの排出量と、植林や森林がそのガスを吸収する量を「差し引きゼロ」とすることを意味します。

そして現在、世界120以上の国と地域が「2050年カーボンニュートラル」へ向けた目標を掲げて活動しています。

日本におけるカーボンニュートラルの取り組みと、グリーン成長戦略について解説します。

グリーン成長戦略の概要

日本は、2020年10月に「2050年カーボンニュートラルの実現」を目指すことを世界に向けて宣言しました。

2050年にカーボンニュートラルを実現させることはかなり高いハードルであり、エネルギー・産業部門の構造転換や、大胆な投資によるイノベーションの創出といった取組を大きく加速させる必要があります。

このため、経済産業省が関係省庁と連携し、2021年6月18日に「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を策定しました。

グリーン成長戦略では、産業政策とエネルギー政策の両面から、成長が期待される14の重要分野について実行計画を策定し、国として高い目標を掲げ、具体的な見通しを示しています。また、こうした目標の実現を目指す企業の挑戦を支援するために、様々な政策を実行します。

政府の掲げるスローガンは次のとおりです。

  • 温暖化への対応を経済成長の制約やコストとする時代は終わり、成長の機会と捉(とら)える時代に突入
  • 研究開発方針や経営方針の転換など、ゲームチェンジの兆(きざ)し
  • グリーン成長戦略によって取り組みを推進
  • イノベーションの実現しにより、革新的技術を社会実装
  • 2050年カーボンニュートラル・CO2排出削減に加えて国民生活のメリットも実現

参照:経済産業省

グリーン成長戦略の具体的内容と数値目標

政府の成長戦略会議が示した2050年カーボンニュートラルへ向けたグリーン成長戦略では、今後の課題や工程表などを整理した実行計画を14の重点分野にわたって策定しました。

グリーン成長戦略の前提となる2050年の電力需要は、現在と比較して30~50%増の、約1兆3千億~約1兆5千億キロワット/時になると試算した上で、この需要に対して再生可能エネルギーで100%賄うことは困難だとしています。

その上で、予算、税制、金融、規制改革など、あらゆる政策を総動員して、日本としての「実質ゼロ」を目指すとしています。

グリーン成長戦略においては、地球温暖化への対応を、経済成長の制約ではなく成長の機会と捉え、経済と環境の好循環を目指します。この戦略を完遂すれば、2030年に年額90兆円、そして2050年に190兆円程度の経済効果が見込まれると推測しています。

また、成長戦略の前提となるエネルギー政策として、電力需要の見通しの他に電源構成の参考値も提示しています。それによれば、2050年に再生可能エネを50~60%、原子力と二酸化炭素(CO2)回収を前提とした火力を30~40%、水素・アンモニア発電を10%程度と推計しました。

そして、240兆円ともいわれる企業の現預金を投資に回すため、チャレンジングな目標を設定しています。
例えば金融関係では、政策金融との連携を含む、各民間金融機関の協力態勢構築を課題に挙げ、これを関係省庁で集中的に議論し、来春を目途にグリーン成長戦略の改定に反映させることとしています。

規制改革関係では、カーボンプライシング(炭素の価格付け)に関して、成長戦略につながるものに限定して、既存制度の強化や対象の拡充について新制度も含めて検討します。

2050年の水素導入量を2千万トンに、また2030年代半ばまでに乗用車新車販売を電動車100%とするなど、14分野のそれぞれで積極的な目標を掲げました。

エネルギー供給構造高度化法における非化石電源として水素を挙げ、原子力ではSMR(小型モジュール炉)や高温ガス炉を活用した、カーボンフリー水素の製造に注力する方針も示されています。

成長が期待される14分野

日本が選定した、2050年に向けて成長が期待される14の重点分野について解説します。

実現へ向けて非常に高い目標を掲げ、また技術のフェーズに応じた実行計画を着実に実施し、国際競争力を強化することを目指しています。

その結果として、2050年の経済効果は約290兆円、雇用効果は約1,800万人と試算しています。

グリーン成長戦略14分野の施策ポイント

重点分野14における施策ポイントは次のとおりです。

エネルギー関連産業

1.洋上風力(洋上風力・太陽光・地熱分野)

  • 2040年に年3000万4500万キロワットを導入(→ポイント)
  • 直流送電の具体的検討を開始

2.燃料アンモニア(水素・燃料アンモニア分野)

  • 2030年へ向けたの取り組み:20%混焼の実証を3年間実施
  • 日本の調達サプライチェーン構築:2050年に1億トン規模へ

3.水素(同上)

導入量を2030年最大300万トン、2050年に2000万トン
水素コストをN立方メートルあたり20円

4.原子力

  • 小型炉(SMR)国際連携プロジェクトに日本企業が主要プレーヤーとして参画
  • 高温ガス炉の日本規格基準普及へ向けて各国関連機関と協力を推進

輸送・製造関連産業

5.自動車・蓄電池

  • 2030年代半ばまでに乗用車新車販売で電動車100%を志向
  • 2030年までの最速時期に、電気自動車とガソリン車の経済性が同等となる車載用の電池パック価格をキロワット時あたり1万円以下へ

6.半導体・情報通信

  • データセンター使用電力の一部を再生可能エネルギー化への義務づけ
  • 2040年に半導体・情報通信産業をカーボンニュートラルへ

7.船舶

  • LNG燃料船の高効率化:低速航行・風力推進システムと組み合わせCO2排出削減率86%
  • 再生メタン活用:実質ゼロエミ化

8.物流・人流・土木インフラ

海外からの次世代エネルギー資源獲得に資する港湾整備

9.食料・農林水産業

地産地消型エネルギーシステムの構築に向けた規制見直し

10.航空機

2035年以降の水素航空機の本格投入へ向け、水素供給に関するインフラやサプライチェーンを検討

11.カーボンリサイクル(カーボンリサイクル・マテリアル分野)

2050年における世界のCO2分離回収市場で、年間10兆円のうちシェア3割(約25億トンのCO2相当)

家庭・オフィス関連産業

12.住宅・建築物/次世代型太陽光(住宅・建築物・次世代電力マネジメント分野)

  • 住宅トップランナー基準のZEH相当水準化
  • ペロブスカイトなど、有望技術の開発・実証を加速化させ、ビル壁面など新市場獲得に向けた製品化と規制的手法を含めた導入

13.資源循環関連

廃棄物発電:ごみの質が低下しても高効率なエネルギー回収を確保

14.ライフスタイル関連

Jークレジット制度:申請手続きの電子化・モニタリング、クレジット認証手続きの簡素化・自動化


上記の重点分野を実現するため、政策を総動員し、イノベーションに向けた各企業の前向きな挑戦を全力で後押しします。

2050年カーボンニュートラルの実現へ向けたロードマップは下記のとおりです。

最後に

世界が取り組んでいる2050年カーボンニュートラルについて、日本でも負けじと推進していますが、この目標達成のために策定されたグリーン成長戦略について解説しました。

完遂するには非常に大きなハードルがあり、それでもこの目標を達成するには、官民挙げての「オールジャパン」体制による真摯な取り組みが必須です。

是非、目標達成に向けて進めていきたいものです。

Stayway / メディア事業部
監修Stayway / メディア事業部
日本国内の補助金の獲得から販路開拓・設備投資を一貫して支援。 中小企業庁認定 経営革新等支援機関

運営からのお知らせ