少子高齢化の進展に伴い、年金の受給年齢は65歳に引き上げられ、今後更なる引き上げが予想されています。
こうした状況下、60歳以降も継続して仕事をしたい人は多数いますが、財政難を抱える企業ではその際に賃金引き下げを伴う実体があります。
そのような環境で活用できる雇用保険が、厚生労働省が主管する高年齢雇用継続給付金です。
高年齢雇用継続給付金とは
高年齢雇用継続給付金とは、60歳時点での賃金と比べて60歳以降の給与・賃金が以前の75%未満まで低下した場合に給付される給付金で、この制度を活用すれば最大で賃金の15%分が支給されます。
例えば、それまで30万円だった月給が60歳以降に20万円になるケース(賃金は以前と比較すると66.67%に下がっています)などが該当します。
この給付金は、こうした収入補填を通じて、働く意欲のある高齢者に対する雇用の継続を支援するために設けられている制度で、60歳に到達した後以前と違う職場に転職した際にも活用できます。
深刻な少子高齢化に伴い労働人口の減少が続く日本では、育児や介護、また年齢などの事情を抱えてもそれまでの仕事が継続できるよう、政府は「雇用継続給付」として、この高年齢雇用継続給付以外にも、育児休業給付、介護休業給付の支援を行っています。
こうした施策を通じ、職業生活の円滑な継続を援助、促進することを大きな目的としています。
参照:厚生労働省(雇用継続給付)
参照:厚生労働省(高年齢雇用継続給付詳細パンフレット)
高年齢再就職給付金との違い
高年齢雇用継続給付には二つの種類があります。
一つが今回取り上げて詳しく解説する「高年齢雇用継続基本給付金」で、もう一つは「高年齢再就職給付金」と呼ばれる制度です。両者の違いは、基本手当(再就職手当など、基本手当を支給したとみなされる給付を含む)を受給しているかどうかです。
高年齢雇用継続基本給付金は基本手当を申請していないことが受給の条件となりますが、失業保険を申請していた場合には、高年齢再就職給付金の受給資格者に該当します。
どちらも60歳以上が対象となり、再就職や雇用継続の際に賃金が以前の75%未満まで減少した人に対し、最大15%までの給付(補填)を受けられるため、月額に違いはありません。ただし、再就職の際には支給期間が最大で2年間となり、状況によっては1年未満となる場合もあるので、確認が必要です。
高年齢雇用継続給付金の受給要件など
高年齢雇用継続給付金の受給要件、金額と計算方法、受給期間、手続き、また留意点について詳しく解説します。
受給要件
高年齢再就職給付金の主な受給要件は下記のとおりです。
- 60歳以上で、失業保険を一部受給中に再就職した人
- 再就職した際の賃金が退職前の賃金と比較して75%未満になる人
- 失業保険の支給残日数が100日以上の人
- 再就職した際に今後1年以上雇用されることが確実な人
- 雇用保険を5年以上支払っていた期間がある人
注意点としては、失業保険の「支給残日数」が100日以上あるかどうかと、再就職後に「1年以上の雇用」が確実であることが挙げられます。
支給残日数が100日未満の場合には受給できないため、再就職したときの賃金よりも失業保険を受給した方が金額が多い場合も多々あります。
また、再就職後に今後1年以上の雇用が確実でないと受給できないので、再就職する際には会社にその旨をしっかりと伝え、受給できるよう準備しておかないと、再就職後に支払われなかったという問題も起こるため、就労者者と会社側で再就職時にしっかり確認することがポイントです。
高年齢雇用継続給付金は、雇用保険に加入していることが基本的な条件ですが、過去に通算で5年以上の加入期間が必要です。
基本手当を受給している場合には高年齢再就職給付金を受けることができますが、上述のとおり再就職日の前日時点で残日数が100日以上残っていることが条件となり、100日以上残っていれば1年、200日以上の場合には2年にわたって高年齢再就職給付金を受け取る資格が発生します。
受給金額と計算方法
高年齢雇用継続給付金の具体的な受給金額を算出するに当たっては、給料・賃金がどの程度下がったのかという「低下率」がポイントです。例えば前述のとおり、30万円から20万円に下がった場合であれば、低下率は66.67%となります。
低下率が61%未満の場合には、60歳以降の賃金の15%が支給されます。一方、低下率が61%~75%未満の場合は、15%よりも低い支給率(74.5%が最少で0.44%の支給、この範囲内での最大は61.5%の場合で14.35%の支給)となります。
計算式は下記のとおりです。
- 賃金低下率が61%超75%未満の場合:60歳以降の毎月の賃金×一定の割合(15%~0%)
- 賃金低下率が61%以下の場合:60歳以降の毎月の賃金×15%
賃金月額については、60歳到達までの6ヶ月の給与総額を180で割り(日額算出)、さらに30をかけて算出します。この際の給与はいわゆる手取りではなく額面で、賞与は除外されます。
先の例では低下率が66.67%で、その場合の賃金月額は16,340円となります。同じ例で、新しい賃金が18万円であった場合には低下率が61%を下回るため、15%を乗じた27,000円が支給額となります。
なお、支給には上限があり、新しい賃金が360,584円(2021年8月1日現在)を超える場合には、低下率にかかわらず給付対象になりません。
受給期間
高年齢雇用継続基本給付金は、60歳になった月から65歳になる月までが支給対象となります。
これも上述のとおり、失業保険の支給残日数が100日以上200日未満の場合は最長1年間受給でき、支給残日数が200日以上の場合には最長2年間受給できますが、いずれも65歳までが支給上限で、支給期間が残っていても、65歳になると受給対象外となり、受給できません。
申請に必要な企業の手続き
労働者が高年齢雇用継続給付の申請を行う際には、基本的に企業側が手続きを行うことが求めてられています。
給手続きの流れは下記のとおりです。
- 被保険者が企業に受給資格確認票・(初回)支給申請書記入・提出
- 企業が受給資格確認票・(初回)支給申請書をハローワークに提出
- ハローワークから企業に受給資格確認通知書・支給(不支給)決定通知書、支給申請書2回目分の交付
- 企業が被保険者に受給資格確認通知書・支給(不支給)決定通知書、支給申請書2回目分交付
- 支給が受理された場合、ハローワークから被保険者に支給
*2回目以降の申請には受給資格確認手続きの必要はありません。
留意点
高年齢雇用継続基本給付金を受給する上での主な留意点は次のとおりです。
60歳未満は対象外
見落としがちなポイントとして、60歳時点での賃金比較になる点が挙げられます。
例えば、58歳で退職して59歳時点で再就職した際に賃金が75%以下に下がっても、高年齢雇用継続給付の対象とはなりません。
ボーナス支給月に申請できない場合も
給付金は資格要件に合致する月であれば毎月受給できますが、賞与(ボーナス)が支給される月は合計賃金が上がるため、要件の合う月とならず、高年齢雇用継続給付金を受給できない場合もあります。
年金が減額されることも
高年齢雇用継続給付金を受給することで、年金(老齢厚生年金)の一部が停止される場合があります。
具体的には、61%以下の低下率の場合、最大6%の年金が支給停止となります。
61%を超える低下率については、高年齢雇用継続給付金の支給と同じく段階的に変化していきます(例えば低下率が62%であれば5.48%の支給停止率となり、最少は74%で0.35%)。
厚生年金は60歳から受給開始が可能ですが、高年齢雇用継続給付金と併用する場合には総合的にデメリットとなってしまうこともあるので、申請前に詳しく確認しておくことがポイントです。
他の雇用継続給付との併用には注意が必要
育児休業給付や介護休業給付が同時に受給可能な場合、休業によって高年齢雇用継続給付金は支給対象月から外れます。
ただし、月の一部のみを育児・介護のために休業した場合には、高年齢雇用継続給付金も受け取れる可能性があります。
高年齢雇用継続給付金は非課税
高年齢雇用継続給付金は課税対象になりません。
2025年以降は制度自体が段階的に廃止へ
2019年に実施された(第137回)労働政策審議会職業安定分科会雇用保険部会において、高年齢雇用継続給付金は段階的に縮小する見解が示されました。
その理由としては、同時期において約8割の企業で希望者が65歳以上まで働けるようになっていること、今後は高齢の労働者を含めて同一労働・同一賃金の適用が見込まれることなどが挙げられています。
この指針を受け、2025年度に60歳に達する人から給付率を半減させ、いずれは廃止される見込みとなっているため、高齢者を抱える企業には早目の対応が求めらます。
最後に
高年齢雇用継続給付金は、その他の主な給付金と同様、雇用継続のために設けられている支援制度です。
少子高齢化が進み、労働人口が減少していくなか、定年後の雇用についても企業はしっかりと準備しておく必要があります。
こうした状況に備え、この制度を有効活用することが期待されます。
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