人材開発支援助成金とは、雇用する労働者のキャリア形成を効果的に促進するため、職務に関連した専門的な知識及び技能を修得させるための職業訓練等を計画に沿って実施したり、教育訓練休暇制度を適用した事業主等に対して助成する制度です。
令和4年度から見直し及び変更された内容を中心に詳しく解説していきます。
※令和4年度予算の成立及び雇用保険法施行規則の改正が前提のため、今後変更される可能性があることにご注意ください。
令和4年度版 人材開発支援助成金とは
令和4年度の人材開発支援助成金は、以下の8コースで構成されています。
1. 特定訓練コース
2. 一般訓練コース
3. 教育訓練休暇等付与コース
4. 特別育成訓練コース
5. 建設労働者認定訓練コース
6. 建設労働者技能実習コース
7. 障害者職業能力開発コース
8. 人への投資促進コース(新設)
令和4年度からの見直し及び変更点は、下記のとおりです。
【令和4年4月1日からの主な改正内容】
令和4年3月8日時点で見直しがあったコースは、以下の3コースです。
・特定訓練コース
・一般訓練コース
・特別育成訓練コース
【3コース共通の変更点】
1. 訓練施設の要件の変更
対象となる訓練施設のうち、「②事業主・事業主団体の設置する施設」の一部を除外します。
<対象除外となる施設>
・申請事業主(取締役含む)の3親等以内の親族が設置する施設
・申請事業主の取締役・雇用する労働者が設置する施設
・グループ事業主が設置する施設で、不特定の者を対象とせずに訓練を実施する施設
・申請事業主が設置する別法人の施設
2. 訓練講師の要件の変更
講師を招いて事業内で訓練を実施する場合、以下に該当する必要があります。
<要件>
・公共職業能力開発施設や各種学校等の施設に所属する指導員等
・職業訓練指導員免許を有する者 ※訓練の内容に直接関係する職種であることが必要
・1級の技能検定に合格した者 ※訓練の内容に直接関係する職種であることが必要
・訓練分野の指導員・講師経験が3年以上の者または実務経験が10年以上の者
また、新たに訓練計画提出時に「OFF-JT部外講師要件確認書」の提出が必要です。
【各コースの変更点】
【人材開発支援助成金の対象コースと助成額】で触れます。
【その他変更点】
令和4年4月1日から下記改正が行われました。
・「人への投資促進コース」の新設。
・すべての訓練コースにおいて、eラーニングによる訓練及び通信制による訓練の場合も当該訓練経費が助成対象(経費助成のみ)となりました。
出典:令和4年度から人材開発支援助成金の見直しを行います
出典:人材開発支援助成金
人材開発支援助成金の対象コースと助成額
人材開発支援助成金のうち、主な5コースについて解説します。
特定訓練コース
雇用する正社員に対して、厚生労働大臣の認定を受けたOJT付き訓練、若年者への訓練、労働生産性向上に資する訓練など、訓練効果の高い10時間以上の訓練を実施した場合に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部を助成します。
令和4年度からの主な変更点は、以下の通りです。
1. OJTを実施した場合の助成額を定額制に変更しました。 ※括弧内は大企業の助成額
特定訓練コース(認定実習併用職業訓練):1訓練当たり20万円(11万円)
2. OJT訓練指導者が1日に指導できる受講者は、3名までとなります。
3. 対象訓練の統廃合を行いました。
見直し前 | 見直し後(R4年度) |
労働生産性向上訓練 若年人材育成訓練 熟練技能育成・承継訓練 |
変更なし |
グローバル人材育成訓練 | 廃止 |
特定分野認定実習併用訓練 | 統廃合 対象労働者の変更 |
認定実習併用職業訓練 |
4. セルフ・キャリアドック制度導入の上乗せ措置を廃止し、定期的なキャリアコンサルティング制度の規定を必須化しました。
5. 「若年人材育成訓練」の対象労働者の要件において、申請事業主等の事業所の雇用保険被保険者となった日から5年を経過していない労働者に変更しました。
基本的な助成額
OFF-JT 経費助成 45%(30%) 賃金助成 760円(380円)
OJT<雇用型訓練に限る> 実施助成 665円(380円)
生産性要件を満たす場合
OFF-JT 経費助成 60%(45%) 賃金助成 960円(480円)
OJT<雇用型訓練に限る> 実施助成 840円(480円)
( ):中小企業以外
本制度において1事業所が1年度に受給できる限度額は、特定訓練コースを含む場合は1,000万円、一般訓練コースのみの場合は500万円です。
出典:人材開発支援助成金(特定訓練コース・一般訓練コース)のご案内(詳細版)
一般訓練コース
雇用する正社員に対して、職務に関連した専門的な知識及び技能を習得させるための20時間以上の訓練(特定訓練コースに該当しないもの)を実施した場合に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部を助成するものです。
基本的な助成額
OFF-JT 経費助成 30% 賃金助成 380円
生産性要件を満たす場合
OFF-JT 経費助成 45% 賃金助成 480円
教育訓練休暇付与コース
・有給教育訓練休暇等制度を導入、労働者が当該休暇を取得し、訓練を受けた場合に助成します。
・120日以上の長期教育訓練休暇制度を導入、労働者が当該休暇を取得し、訓練を受けた場合に助成します。
基本的な助成金額
30万円
生産性要件を満たす場合
36万円
これに加え、長期教育訓練休暇制度に対しても助成金額が定められています。
基本的な助成額
定額20万円 1人あたりの助成金額6,000円/日
生産性要件を満たす場合
同24万円、7,200円/日
特別育成訓練コース
有期契約労働者等の人材育成に取り組んだ場合に助成します。
令和4年度からの主な変更点は、以下の通りです。
1. 特定訓練コースと同様に、OJTを実施した場合の助成額を定額制に変更しました。 ※括弧内は大企業の助成額
特別育成訓練コース(有期実習型訓練):1訓練当たり10万円(9万円)
2. 特定訓練コースと同様に、OJT訓練指導者が1日に指導できる受講者は3名までとなります。
3. 助成対象訓練の変更
対象訓練のうち「職業または職務の種類を問わず、職業人として共通して必要となる訓練」に関して、これまで「職務に関連した内容に限り制限なく実施可能」としていましたが、「訓練時間数に占める割合が半分未満であることが必要」となりました。
4. 計画届提出時の書類の変更
提出書類の一部が変更となりました。
一般職業訓練・有期実習型訓練
20時間以上100時間未満:10万円
100時間以上200時間未満:20万円
200時間以上:30万円
賃金の助成:760円
中長期キャリア形成訓練
20時間以上100時間未満:15万円
100時間以上200時間未満:30万円
200時間以上:50万円
賃金の助成:760円
中小企業等担い手育成訓練
賃金の助成:760円
人への投資促進コース
事業主が労働者に対して訓練を実施した場合に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部を助成します。
国民からのご提案を踏まえて、以下5つの助成を新設します。
・高度デジタル人材訓練/成長分野等人材訓練
・情報技術分野認定実習併用職業訓練
・定額制訓練
・自発的職業能力開発訓練
・長期教育訓練休暇等制度
出典:人材開発支援助成金人への投資促進コースのご案内(詳細版)
キャリアアップ助成金との違い
人材開発支援助成金とキャリアアップ助成金は、どちらも似た表現なので同じ内容に聞こえますが、実際には異なる制度です。前者の対象となるのは雇用保険の被保険者ですが、後者は有期契約労働者・無期雇用労働者が対象になります。
有期契約労働者は、パート・アルバイト・派遣社員・契約社員など、契約期間が定められている労働者のことで、また無期雇用労働者は、期間が定められていない正規雇用の労働者以外を指します。
人材開発支援助成金は、基本的に長期労働かつ週の労働時間が20時間を超える者であれば有期契約労働者や正規雇用労働者に関係なく対象になりますが、キャリアアップ助成金は主に、正規雇用の労働者以外のことを指しています。
キャリアアップ助成金の目的は、非正規雇用の労働者を正規雇用に引き上げる目的で助成をしていることによります。
人材開発支援助成金のメリット、デメリット
次に、人材開発支援助成金のメリット、デメリットについて解説します。
メリット
メリットは次のとおりです。
人材育成上の費用負担が軽減される
人材育成のためには一定の費用がかかるため、教育や訓練に関心があっても、実際の費用負担を考えると躊躇する企業が多い状況です。
ところが、人材開発支援助成金を活用すれば、こうした費用負担がかなり軽減されるため、実施に踏み切れるメリットが生じます。
労働者のキャリアアップ意識が高まる
教育や訓練が全く実施されない職場環境では、労働者の意欲も低下していきます。
人材開発支援助成金を活用して人材育成に力を入れることで、労働者の能力や技術が向上し、将来へ向けたキャリアアップへの意識が向上します。
業績アップにつながる
必要な育成がなされ、労働者の能力と意欲が高まれば、会社の業績にも反映されることになります。
人材開発支援助成金の活用によって、経営者も労働者の双方に大きなメリットが生じることとなります。
デメリット
一方、デメリットもあります。
申請に手間が掛かる
人材開発支援助成金を受け取るためには、後述する所定の手続きと書類準備が必要になります。
申請は訓練実施の前後に行う必要があり、また、それぞれ申請期間が設けられているため、一定の事前準備と覚悟が必要です。
申請から受給までに時間がかかる
人材開発支援助成金に限らず、多くの補助金や助成金に共通していますが、申請から受給までには一定の時間がかかります。
申請に掛かる諸費用は一定の割合で助成を受けられますが、実際に給付されるまでの間は立て替えの必要があります。
人材開発支援助成金を受給するまでの流れと提出書類
人材開発支援助成金を受給するためには、計画作成から助成金受給までの流れと、書類提出に対応する必要があります。
主な流れは下記のとおりです。
- 企業が労働者に対しての訓練計画を作成し、実施1ヶ月前までに労働局へ提出する
- 提出した訓練計画に沿って、訓練を実施する
- 訓練が終了した2ヶ月以内に支給申請書を労働局へ提出する
- 審査が通れば助成金を受給
なお、提出書類の詳細については助成対象が違うコースや、実施する場合が事業主か、事業主団体の場合などによって変わってきます。
詳しくは下記を参照してください。
人材開発支援助成金を利用する際の注意事項
人材開発支援助成金を利用する際の主な注意事項について解説します。
まず、訓練コースの計画書を作成する際には、各コースによって条件が違うので注意する必要があります。
特に注意したいのが、特定訓練コースです。このコースは訓練計画書を提出する前に、実践型人材育成システム実施計画等を申請し、厚生労働大臣の認定をもらう必要があるので、認定を受けた後に訓練計画書を提出することがポイントとなります。
なお、申請にあたり、厚生労働省では、人材開発支援の計画や申請、相談や実施、指導を担う職業能力開発推進者の選任を求めています。この役割を満たすためには、応募する企業の社内で教育や訓練を担当する部署の部長や課長、または労務や人事、総務担当の部課長などを選任することが必要です。
最後に
人材開発支援助成金は、その性格から、申請に必要な諸条件を満たしていればほぼ問題なく給付されます。
また、採択率なども気にする必要はありませんが、申請要件を満たすことと、期間内に確実に申請することに留意し、この制度を十分活用されることを期待します。
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