多くの企業は、事業拡大・発展のため、数年に一度は大きな設備投資を計画します。その際、資産として計上する必要のある高額な設備などは、「特別償却」や「税額控除」という手法を駆使して、節税を図ります。
特別償却と税額控除の意味と違い、優位性比較などについて詳しく解説します。
特別償却と税額控除の意味
まず最初に、特別償却と税額控除の意味について解説します。
特別償却
特別償却とは、法人税法の規定によって算定した普通償却限度額以外に、追加での償却が認められる租税優遇措置で、青色申告を対象とする法人に適用されます。
普通償却限度額とは別に、特別に一定額の減価償却を拡大し、当該事業年度での税負担を軽減することが可能となる措置で、特別償却が認められる資産の償却限度額は、普通償却限度額と特別償却限度額の合計値となります。
具体的には、固定資産を取得する際、通常の減価償却費とは別に、一定の割合を損金(税務上の経費)として計上することが可能となるものです。
初年度の特別償却と割増償却
特別償却には、初年度の特別償却と割増償却があります。
初年度の償却
特定の減価償却資産を取得して事業用に提供した事業年度に、特別償却限度額として、取得価額の一定割合を一時的に損金算入するものです。
「特別償却限度額 = 取得価額 × 特別償却割合」
割増償却
税法で認められた通常の方法による償却に加え、一定割合を乗じて算定した金額を上乗せして償却できる措置です。
「特別償却限度額 = 普通償却限度額 × 割増償却割合」
税額控除
税額控除とは、納付税額を減額できる税法独自の概念で、算出税額から一定額を控除できる永久免税措置となりますが、簡単にいえば、納めなければならない税額からマイナスする措置のことです。
税額控除は、次のとおり区分されます。
- 租税特別措置法による税額控除
- 法人税法による税額控除
なお、租税特別措置法委による税額控除が法人税法による税額控除より先に実行されます。
- 租税特別措置法による法人税額の特別控除
- 仮装経理に基づく課題申告の更正に伴う控除法人税額
参照:国税庁
特別償却と税額控除の違い
特別償却は、上述のとおり減価償却に上乗せして計上することで、利益から差し引かれるため、法人税などが抑えられる利点があります。
一方、税額控除は文字通り税金から差し引かれるもので、購入額の一定割合分を直接、税額から引くことが可能となります。
この点が特別償却と税額控除の大きな違いであり、それぞれは根本的に異なる制度です。
特別償却と税額控除の優位性比較
特別償却が償却を前倒しして課税を繰り延べる措置であるのに対して、税額控除は納めるべき税額から一定額が特別に控除されるものです。
税額は一定額の法人税を控除する、一種の「免税」であることから、節税という観点からみると、永久に免税効果のある税額控除の方が有利となります。
具体例での考察
具体的な事例から解説します。
特別償却の場合
特別償却である中小企業投資促進税制では、取得価額全額の即時償却(初年度に全額経費として計上)、または取得価額の7%(特定の中小企業は10%)の税額控除が選択可能です。
ある企業が200万円の機械を購入した場合、特別償却を選択すると200万円を初年度の損金に算入することができるため、中小法人の税率を15%として計算すれば、納付すべき法人税は30万円(200万円×15%)少なくなります。ただし、初年度に全額費用化してしまっているため、翌年以降は損金に算入することはできません。
税額控除の場合
一方、税額控除を選択した場合は、200万円の機械を購入すると、200万円×7%=14万円を法人税額から直接控除することが可能です。
特別償却を選択すれば30万円を損金として算入することができるため、30万円と税額控除の14万円を比較すると、当期の節税効果は税額控除の方が小額である一方、別枠で取得価額200万円に対する通常の減価償却も同時に実行することが可能です。
税額控除を選択すれば、耐用年数に応じて全額を損金算入することが可能となります。
両者における性質の違い
特別償却が課税繰延措置であるのに対し、税額控除は算出税額から控除できる免税効果を伴う措置なので、どちらかを一方的に選択するのではなく、それぞれを状況に応じて有効に活用すべきです。
実際にどちらを選択する方が有利なのかについては、専門家である税理士などに相談し、検討することもポイントです。
中小企業に適用可能な税額控除
コロナ禍が続き、厳しい経営環境に直面している多くの中小企業に対する、主な税額控除制度について解説します。
詳細については主管庁の施策をご参照ください。
試験研究を行った際
- 試験研究費にかかる税額控除
- 特別試験研究費にかかる税額控除
- 中小企業の試験研究費の税額控除(中小企業技術基盤強化税制)
機械を取得した際
特定中小企業者(資本金または出資金が3,000万円以下の法人または農業協同組合等)が特定機械装置を取得した際、取得価額の7%相当額が税額控除される措置です。
高度省エネルギー推進設備等を取得した時の税額控除
中小企業者が高度省エネルギー推進設備を取得した場合、取得価額の7%相当が税額控除となります。
参照:国税庁(高度省エネルギー増進設備等を取得した場合の特別償却又は税額控除)
特定経営力向上設備を取得した時の税額控除
中小企業者が特定経営力向上設備等を取得した場合に、取得価額の7%相当額が税額控除となるものです。
給与を引き上げた際の税額控除
継続雇用者に対する給等支給額を1.5%以上増加させた場合に、支給増加額の15%相当額が税額控除となります。
最後に
特別償却も税額控除も、税制上の優遇措置であり、事業に直面している企業経営者にとって、具体的にどの制度を選択し、活用するかが大きなポイントとなります。
少しでも税負担を減少させ、資金繰りを改善するため、自社の経営方針に合致した制度を選択することが求められます。
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