新規に創業を志す際、最初の大きなハードルとなるのが「資金調達」です。
これまで経営実績がない事業者が、いきなり民間の金融機関から融資を受けるのは信用上困難ですが、公的な創業融資制度を利用すれば、借り入れの支援が期待できます。
創業融資の概要と種類や条件、留意点や補助金などについて解説します。
創業融資とは
創業融資とは、創業(起業・独立・開業もほぼ同義とします)する際に、自己資金だけで事業資金を調達することができす、他者からお金を借りて事業を開始する状況を指します。
創業にあたっては、業種や業態にもよりますが、多くの場合は仕入れや人件費、また店舗の準備費用など、さまざまな分野でまとまった資金が必要となります。
こうした費用を全て自己資金でまかなえればリスクもなく安全なのですが、現実的には難しく、多くの場合は他者(外部)から資金調達する、すなわち創業融資を受ける必要があります。
創業融資を実施する機関
自己資金でまかなえない部分を創業融資で補うこととなりますが、融資を実施する機関(貸し手)は概ね次のようになります。
- 親兄弟、親族、親戚等
- 日本政策金融公庫
- 各自治体
- 民間金融機関
- ノンバンク等
上記のうち、親兄弟や親族、親戚等、身内から借り入れるのは安全性が高い反面、万一返済出来なかった場合に人間関係をこじらせたり、信頼関係を損なったりするリスクがあり、あまり推奨できません。
また、民間金融機関は査定が厳しく融資が困難であり、ノンバンク等は高利息を課せられるなど、返済の負担が大きく、こちらも問題が大きいといえるでしょう。
比較的リスクも少なく、融資も得られやすい創業融資として、日本政策金公庫の「新創業融資制度」と、各都道府県・市区町村が用意する「制度融資」を活用することが効果的です。
日本政策金融公庫の新創業融資制度
日本政策金融公庫は政府系の金融機関で、新創業融資制度は創業前・創業直後の事業者が無担保・無保証で利用できる創業融資です。
主な条件などについて解説します。
- 資格要件:新たに事業を始める、または事業開始後税務申告を2期終えていない申請者
- 自己資金の要件:新たに事業を始める、または事業開始後税務申告を1期終えていない申請者は、創業時に創業資金総額の10分の1以上の自己資金を確認できること
- 使途:新たに事業を始める、または事業開始後に必要とする設備資金および運転資金
- 融資限度額:3,000万円(うち運転資金1,500万円)
- 担保・保証人:原則不要
詳細については下記をご参照ください。
参照:日本政策金融公庫
各都道府県・市区町村の制度融資
各地方自治体が、それぞれの信用保証協会と金融機関と連携して運営している創業融資制度のことです。
東京都の事例を挙げてみます。
東京都中小企業制度融資『創業』
- 対象:都内に事業所(個人事業者は事業所又は住所)があり、東京信用保証協会の保証対象業種を営む中小企業者で、定められた資格要件を満たす事業者
- 融資内容:3500万円(融資対象1については、自己資金に2,000万円を加えた額の範囲内)
- 返却期間:設備資金10年以内(据置期間1年以内を含む。)、運転資金7年以内(据置期間1年以内を含む。)
詳しくは下記をご参照ください。
参照:東京都創業NET
全国各地域で制度を展開しているため、それぞれ確認することをお勧めします。
審査に通る5つのポイント
創業融資を受ける際、審査に通るポイントを5つ挙げて解説します。
1.自己資金
自己資金は起業家自らが事前に準備している資金です。融資にあたっては、この自己資金をどれだけ用意したかどうかが重要なポイントとなります。
通常、自己資金の割合は、借り入れ希望額の概ね3分の1以上が望ましいとされています。
2.経験・能力
通常の融資では、借り手企業における過去の業績に基づいて審査が行われます。ところが創業融資の場合、過去の実績がないため、申請者の会社員時代など、過去の経験や行動に基づいて判断されます。
起業する分野のビジネス経験を会社員時代にどの程度積んできたか、また、経営者の個人信用情報などが厳しくチェックされます。
3.返済可能性
創業融資を受けた後、返済の可能性があるかないかが大きなポイントとなります。
貸し手の金融機関は、融資希望者の事業計画における今後の利益計画と妥当性を審査しますが、金融機関は社会的にも確実に回収する責任があります。このため、金融機関も融資したいという想いだけでは融資できません。
4.資金使途
創業融資を受ける際には、資金使途(お金の使いみち)を証明する必要があります。また、融資を受けた後に使用用途が申請と合致しているかも確認されます。
申請通りに融資金を使わない場合は、融資が打ち切られたり、今後融資を受けられなくなる可能性もあります。
5.専門家への相談
創業融資を受けるには大きなリスクが伴います。このため、専門家に相談することも重要な要素です。
創業融資の支援は税理士や行政書士、またコンサルティング会社などが実施しますが、日本政策金融公庫その他金融機関からの信頼が圧倒的に高いのは税理士です。
個人事業主でも融資を受けられるか
結論からいえば、個人事業主でも創業融資は受けられます。
個人事業主が創業後すぐに融資を受ける方法として挙げられる代表的なものは、日本政策金融公庫の融資と制度融資(保証協会付融資)です。
日本政策金融公庫
上述した日本政策金融公庫の新創業融資制度を活用すれば、金利が2.41~2.80%(令和2年11月)、かつ無担保保証人なしで借り入れでき、融資審査にかかる期間も1か月~1か月半程度です。
制度融資
これも上述のとおり、主に地方自治体と民間の金融機関、信用保証協会の三者が連携して融資を実行するものです。
金利は1.0%~3.0%程度ですが、自治体によって要件が異なるため確認が必要です。信用保証協会と民間の金融機関両方の審査があるため、融資実行までに2か月ほど必要です。
補助金・助成金などの活用は
創業融資以外に、政府や自治体が実施している各種の補助金や助成金などを活用することも可能です。
主な支援項目を挙げますので、詳細はそれぞれに確認をお願いします。
- 経済産業省(経産省)系の補助金・助成金
- 厚生労働省系の補助金・助成金
- 自治体独自の補助金・助成金
- その他の補助金・助成金
留意点
創業融資を受けるには、事業者としてビジネスプランをしっかりと作成し、資金面の裏付けを行うことが重要です。
ビジネスプランの作成
上述のとおり、貸し手が納得して融資を行うには、しっかりとしたビジネスプラン(事業計画)と収支・利益計画が明確に示されていることがポイントです。
事業計画書には、創業の動機やプロフィール、商品やターゲット、セールスポイント、資金計画や収支見込などを記載します。事業者自身が経営の課題を整理し、やるべき行動を明確化することで、創業後も経営を振り返る際に有益です。
資金の裏づけ
創業時の自己資金準備を行うことも重要です。公的な創業融資の場合、創業資金総額に占める自己資金準備割合の要件があるため、自己資金がなければ融資が受けられません。
資金の裏付けについても留意が必要です。自己資金として認められるには、事業者名義の預金通帳に従前から記帳されていることが必要です。
創業準備の段階から、銀行の預金通帳を用いて資金管理をしておくことが、金融機関からの借入時における信用につながります。
最後に
創業融資を受ける際には、それぞれの融資制度における審査基準をしっかりと確認し、それに応じて準備を整えることが大切です。
今回解説した、創業融資で重要となる審査基準などを参考に、しっかりと対策を練っていただくことを期待しています。
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