事業主が銀行から借り入れを検討する際、気になるのが金利です。銀行から借り入れをする場合には、決算書などの提出書類に基づいて最終的な金利が決定しますが、借り入れ機関によっても金利には差異があります。
銀行から借り入れを行う場合の金利相場や、金利決定のプロセス、計算方法などについて詳しく解説します。
金利決定のプロセス
銀行からの借り入れする際、金利決定のプロセスを確認する必要があります。
まずは銀行の審査を受けることから始まりますが、審査にあたっては、以下の書類を提出します。
- 登記簿謄本
- 印鑑証明書
- 納税証明書
- 決算書(損益計算書、貸借対照表)
- 確定申告書
- 資金繰り表
- 事業計画書
- 試算表
- 借入状況一覧
- 手持工事明細表(建設業)
こうした資料に基づき、融資の可否や金利、返済期間・返済方法が確定します。
なお、評価に当たっては、決算書などの資料から定量評価と定性評価それぞれについて査定されます。
定量評価
定量評価でポイントとなるのは、収益性、安全性、成長性、そして債務償還能力の4点となります。それぞれについて下記に解説します。
- 収益性:売上高経常利益率・総資本経常利益率(黒字化、利益の効率性)
- 安全性:負債と自己資本の比率(事業の安定性)
- 成長性:経常利益増加率や売上高(事業の成長性)
- 債務償還能力:債務償還年数やキャッシュフロー額(返済能力)
定性評価
定性評価でのポイントは、経営者の能力や人柄、経営方針や市場の成長性、従業員のモラルなど、決算書では数値化できない定性的な評価です。この評価に基づき、下記のカテゴリに分類されるので、正常先となるよう留意する必要があります。
- 正常先
- 要注意先
- 要管理先
- 破綻懸念先
- 実質破綻先
- 破綻先
借入先の特徴
借り入れを起こす際、政府系金融機関である日本政策金融公庫と、民間の銀行とに大別されます。これについて解説します。
日本政策金融公庫
日本政策金融公庫からの借り入れは、民間の銀行と同じく審査までは通常1ケ月程度(場合によっては2ケ月前後)の期間が必要です、銀行よりも金利が低く、また様々なケースに対応できる融資制度を提供している点が大きな特徴です。
主な支援制度として、新規事業を始めたい起業家に向けた新事業活動促進や新規開業支援、また、情報化投資を行うためのIT活用促進資金などが挙げられます。
起業家が借り入れを検討する際には、今後の事業拡大に向けてだけではなく、取引先の倒産や経済環境の変化などによって一時的に資金がショートした場合の対策なども考えられます。日本政策金融公庫ではまた、こうした外部要因で資金繰りが悪化した中小企業を対象に、セーフティーネット貸付も提供しています。
参照:日本政策金融公庫
民間の銀行
銀行からの融資には、プロパー融資、信用保証協会による保証付き融資、またビジネスローンがあります。
プロパー融資
銀行からの直接融資を指し、企業が銀行から直接借り入れ、返済します。
この場合、もし企業が返済できなくなったら、銀行は残債分を損することとなり、いわゆる貸し倒れ」となります。
信用保証協会の保証付き融資
企業は、信用保証協会に保証料を払って保証を受けた上で、銀行から融資を受けます。
返済は銀行に対して直接実施しますが、返済できなくなってしまった場合は信用保証協会が残債の80~100%を銀行に替わって返済(代位弁済)します。
借り入れ金利はプロパー融資のほうが低く、保証付き融資は高くなります。信用度の問題であり、金利は信用度が高い企業ほど低く、信用度が下がると金利も高くなる傾向があります。
なお、中小企業向けに保証料の補助制度を実施している自治体が多数あります。例えば東京都下であれば、中小企業融資斡旋(あっせん)制度の利用者で、東京信用保証協会の保証付き融資を受けた場合には、信用保証料補助金の対象となる場合があります。港区の例(下記)をご参照ください。
参照:港区産業振興課
ビジネスローン
銀行では、プロパー融資、信用保証協会の保証付き融資の他に、ビジネスローンも提供しています。
ビジネスローンの特徴は次のとおりです。
- 提出書類の数が少ない
- 借り入れの申込から融資実施までの時間が短い
- 保証人や担保が不要
多くのメリットがある反面、金利は高めに設定されています。また、ビジネスローンは、銀行の他にもクレジットカード会社や消費者金融などの民間企業も提供しています。
金利の計算方法
銀行融資の金利は「実質年率」で表示することが義務付けられており、金利計算をする際にも実質年率からこれを算出します。実質年率とは、元金以外に支払う必要がある、利息や手数料などの諸費用を含めた金利を表します。
金利は以下の式で示されます。
金利(利息額)=借入残高×金利(実質年率)÷365日×借入日数
具体的な事例でに金利(利息)計算をします。
借入残高30万円、実質年率15.0%、借入日数30日の場合、
30万円×15.0%÷365日×30日=3,698.630
すなわち、3,699円が1ケ月の金利となります。
この条件で毎月3万円を返済した場合、返済期間は11ケ月、合計利息は22,174円となります。
返済期間を長く設定すると、それに応じて支払い利息が増大するので、可能な範囲で早めに返済することがポイントとなります。
法人と個人の違い
銀行融資を仰ぐ際、法人の種類や個人によって金利にも差異があります。これについて解説します。
法人(大企業)向けの銀行融資
大企業に対して融資を行うのは、主として日本政策投資銀行や都市銀行です。
日本政策投資銀行は、中小企業向け以外に、大企業に対しても長期的な融資を行い、日本経済発展のため資金援助を行っています。基本的には低金利(1~2%前後)で融資を行っています。
これに対し、都市銀行の金利は数%~10%前後と、日本政策投資銀行より高く設定されていますが、ノンバンクや消費者金融などに比べれば比較的低金利で融資を受けられます。
中小企業向けの借入金利の平均
中小企業が借り入れを行う金融機関は、日本政策金融公庫や銀行、またノンバンクなどが挙げられます。
各機関の貸付条件を下記に解説します。
- 日本政策金融公庫:金利年1~3%、審査難易度高、融資実施まで約1ケ月
- 銀行:金利年2~9%、審査難易度普通、融資実施まで数週間~1ケ月
- ノンバンク:金利年6~18%、審査難易度易、融資実施まで最短即日
※金利はあくまで目安で、各金融機関や制度・商品により異なります。
なお、民間調査機関のデータによれば、近年企業の平均借入金利は年々低下しており、2007年度の平均借入金利が2.33%だったものが、それ以降11年連続で低下しており、2018年度の企業の平均借入金利は1.37%となっています。
参照:帝国データバンク
また、中小企業向けには、利子の補助制度があり、例えば中小機構では、公的金融機関による新型コロナウイルス感染症特別貸等や都道府県制度融資への利子補給によって、実質的に無利子での借り入れが可能です。
参照:中小機構
個人(個人事業主)向け銀行融資の金利相場
個人事業主でも銀行から融資を受けることは可能であり、その場合の金利は数%~10%前後が相場となります。
その他にも、日本政策金融公庫やノンバンクなどからも借入は可能です。各機関の具体的な金利や貸付条件は上記・中小企業向けとほぼ同様です。
個人事業主は、法人に比べれば都市銀行から直接借入することが難しい反面、信用金庫や地方銀行は、地域活性化などの観点から積極的に、また比較的低金利で融資に応じる場合がありますが、融資を受ける際の審査は、信用金庫やノンバンクなど他の金融機関に比べるとやや厳しい状況があります。
このため、融資を受けるまでにかかる期間も長いので、借り入れを行う際は計画的に利用する必要があります。
最後に
銀行から借り入れを行う際の金利条件や決定プロセス、融資元の種類や条件、金利計算方法などについて解説しました。
自社の置かれた状況や目的などに応じ、スムーズな融資を勝ち取れるよう、また有利な金利で融資を受けられるよう、しっかりと検討いただきたいものです。
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