起業家・経営者が事業推進に当たって必要な資金を調達する際、検討するひとつの手段が、ベンチャーキャピタルからの出資です。
ベンチャーキャピタルからの資金調達の現状とメリット・デメリット、留意点などについて詳しく解説します。
ベンチャーキャピタルからの資金調達とは
ベンチャーキャピタル(VC)とは、中期・短期スパンでみて、その大きな成長が見込めるスタートアップ起業に対して出資する投資会社のことを指します。
すでに事業を立ち上げて実績を有し、ビジネスモデルが確立されているような中堅事業(スモールビジネス)と比較して、スタートアップ企業は未知な存在であり、市場の概念を変える革新的なビジネスモデルを持っています。こうした企業に出資することを目的とするのがベンチャーキャピタルです。
一般的な資金調達方法としては、民間の銀行や日本政策金融公庫からの融資が挙げられますが、融資は期限内に、また利息を加えて返済する必要があります。これに対して、ベンチャーキャピタルからの資金調達は出資のため、返済の必要はありません。
ベンチャーキャピタルは、スタートアップ企業が未上場の時点で出資を行い、その後の上場・成長後に、取得した株式や事業を売却することで、キャピタルゲインを得ます。そして、ベンチャーキャピタルの担当者が出資先企業に社外役員やアドバイザーとして参画し、成長を支援します。
リターンの大きさも大きな魅力となっており、債権や株式に期待されるリターンが数%であるのに対し、ベンチャーキャピタルの場合は1年間で15%以上など、かなり大きなリターンが期待できます。
資金調達の現状
ここ最近、ベンチャーキャピタルが企業へ投資する件数は増加傾向で、投資額の規模も増大しています。その主な理由としては、ベンチャーキャピタルからの資金調達に成功している企業が増加傾向にあることが挙げられます。
この状況について、一般財団法人ベンチャーエンタープライズセンターが公表している分析結果から解説します。
直近の投資状況
直近のVCによる投資の状況についてみていきます。
全体の状況
一般財団法人ベンチャーエンタープライズセンターでは、定期的(各Q毎)にベンチャーキャピタルの投資動向調査における結果を公表しています。
それによれば、直近の2021年第3四半期(7月~9月)における国内投資金額は約590.9億円であり、対前期では6.5億円の増加、また対前年同期では263.4億円の増加となっています。
投資件数をみても、当該期間では383件で、対前年同期比では95件の増加、対前期比でも30件の増加となっています。
業種別の状況
ベンチャー投資金額を業種別にみると、下記の順となっています。
- コンピュータ・関連機器、ITサービス:国内(43.3%)、海外(43.1%)ともにトップシェアを占め、国内外合計で第1位(43.2%)
- 国内外計:バイオ、製薬(15.5%)、「工業、エネギー、その他産業(15.4%) 、メディア、娯楽、小売、消費財(7.5%)
ステージ別動向(国内)
国内向けベンチャー投資金額をステージ(*)別にみると、次のような状況となっています。
(*)シード:起業前、アーリー:スタートアップ段階、エクスパンション:事業を軌道に乗らせる段階、レイター:企業成長拡大で安定して黒字を保持し拡大する段階
- アーリー:シェア48.1%、対前年同期比+2.4ポイント、対前期比-2.3ポイント
- エクスパンション:シェア25.8%、対前年同期比-3.8ポイント、対前期比+9.1ポイント
- シード:対前年同期比-1.2ポイント、対前期比-1.7ポイント
- レイター:対前年同期比+2.7ポイント、対前期比-5.0ポイント
ファンドの新規設立動向と属性
今回の調査期間で新規に設立されたファンドは14件・548億円となっており、対前年同期比では3件増加、金額は168.7億円の増加となっています。対前期比では7件減少、金額は826.4億円の減少となっています。本数・
追加出資額は98.2億円であり、対前期比で59.8億円増加、対前年同期比では234.4億円減少となりました。
これを出資者別の金額構成比でみると、下記の状況となっています。
- 銀行・信用金庫・信用組合:29.9%
- 年金基金:15.2%
- 事業法人:8.4%
- 保険会社:7.6%
- 個人・親族:4.4%
ベンチャーキャピタルから資金調達を行うメリットとデメリット
ベンチャーキャピタルから資金を調達する際のメリットとデメリットについて解説します。
メリット
主なメリットは次のとおりです。
調達金額が高額
ベンチャーキャピタルから資金調達を行う最大のメリットは、調達できる金額が大きい点が挙げられます。
銀行など金融機関から融資を受ける場合には、通常定められた限度額がありますが、ベンチャーキャピタルの場合は、借り手である企業が示すビジネスモデルや成長の可能性によっては、数億円規模の多額な資金を調達できる可能性があります。
返済義務がない
ベンチャーキャピタルは、投資元からの管理手数料や、借り手企業からのキャピタルゲインを主な収益としているため、金融機関から融資を受ける際に求められる担保や保証人も不要で、返済の義務もありません。仮に事業が失敗した場合でも債務を負う必要がないため、起業家にとっては大きな安心材料になります。
経営ノウハウが学べる
ベンチャーキャピタルは、上述のとおり出資先が成長し、事業が成功すればそれに応じた大きなリターンが得られるため、資金を提供する以外にも。当該企業に役員を派遣し、経営ノウハウや経営資源、またアイデアの提供などを積極的に行います。
これまでに成功を収めた投資先企業の事例などを元に有益なアドバイスを受けることは、起業家にとって大きなメリットとなります。
デメリット
続いてデメリットについてみていきます。
経営方針への干渉を受ける
ベンチャーキャピタルから資金調達を受けると、ベンチャーキャピタルは出資者となり、その意向や影響力に沿った形での経営が求められる可能性があります。
自社の経営方針に対する外部からの干渉を受けることで、自由闊達な事業活動が制限されるデメリットに繋がります。
早期資金回収のリスク
ベンチャーキャピタルからの資金調達を受けた後、自社の業績が著しく悪化してしまった場合には、ベンチャーキャピタルが事業から手を引く可能性があります。
その場合、早期に資金回収をするため、株式の売却を迫られる可能性もあります。
持株を失う
上述のとおり、ベンチャーキャピタルは出資企業からのキャピタルゲインを求めるため、資金調達を受けた企業側は、将来的に株式を譲渡することが迫られます。
ベンチャーキャピタルを活用する際の留意点
ベンチャーキャピタルから資金調達を受ける際に最も留意すべき点として、自社が現状、本当にベンチャーキャピタルからの資金調達が必要かどうかを慎重に見極めることが挙げられます。
ベンチャーキャピタルからの資金調達は、銀行などの金融機関からの借り入れとは全く性質が異なり、経営そのものに介入され、当初想定した経営方針に大きく影響を蒙(こうむ)る懸念もあります。このため、自社の事業を急成長させたい、またはその見込みがあるなど、事業の現状や見込みをしっかりと分析し、ベンチャーキャピタルからの資金調達が本当に適しているのかを冷静に判断することが重要です。
ベンチャーキャピタルからの資金調達によって経営の自由度が下がり、その挙句に事業が計画どおり進まなければ、支援が打ち切られ、事業が頓挫(とんざ)してしまう可能性もあります。
更に、幸いにして事業が成功した場合でも、その成果から大きく還元する必要があり、還元金額は資金調達を受けた金額の数倍から数十倍になる場合もあります。
最後に
ベンチャーキャピタルの資金調達の現状とメリット・デメリットについて解説しました。
高額な支援が得られるなど、大きなメリットがある反面、経営上のリスクも見過ごせません。自社が置かれた現状をしっかりと把握・分析した上で、適切に運用することが重要です。
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