少子高齢化や、様々な経済社会・労働環境の変化などにより、近年ではいわゆる非正規雇用での就労者の割合が増加しています。
これに伴い、正社員と非正規社員の間での賃金格差が問題となり、同一労働同一賃金に関する議論も盛んに行われています。
同一労働同一賃金について詳しく解説します。
同一労働同一賃金とは
同一労働同一賃金とは、同じ仕事に就業している場合、正社員か非正社員であるかを問わず、同一の賃金を支給すべきという考え方です。
厚生労働省では、この考え方に基づき、同一企業・団体における正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者)と、非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)との間の不合理な待遇差の解消を目指し、ガイドラインを定めています。
そして、同一企業内における正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間の不合理な待遇差の解消の取組を通じ、どのような雇用形態を選択しても納得が得られる処遇を受けられ、多様な働き方を自由に選択できることを目指しています。
参照:厚生労働省
同一労働同一賃金適用の背景と経緯
経済のグローバル化や国際競争の激化、高度情報化の進展などを背景として、人々の働き方は多様化しており、近年では非正規労働者が4割近くを占める状況となっています。
一方、非正規労働者の賃金は正規労働者の約6割にとどまっており、福利厚生や能力開発の機会等の面で格差が存在しています。
本来、従業員の待遇は各企業が決める事項ですが、「雇用形態が異なることだけで格差がある」点について不公平を感じる非正規社員もいます。非正規社員の仕事や能力が適正に評価され、納得できる処遇を受けられれば、こうした人々のモチベーションも改善され、労働生産性の向上も期待されます。
また、賃金格差は政策課題としても重要なテーマとなっており、賃金の底上げによって貧困が解消され、未婚率の上昇・出生率の低下に歯止めがかけられることや、個人消費の拡大に伴う経済活性化が期待されることなどがその背景として挙げられます。
法改正の状況
同一労働同一賃金へ向けた改正法は2020年4月1日に施行されました。
この改正と前後し、労働基準法などの改正案を含む働き方改革関連法が成立したことにより、同一労働同一賃金にかかわる「パートタイム・有期雇用労働法」「労働者派遣法」も改正され、賃金制度の改善に向けての進捗がみられます。
労働賃金をめぐる最新動向
ここ最近における日本の雇用と労働賃金の動向について解説します。
雇用の現状
ここ最近の国内における雇用の動向をみると、1994年以降非正規社員は増加を続け、役員を除く雇用者全体で2019年までに約4割(38.3%)に達しています。その中でも65歳以上の割合が向上しており、正社員を目指しながら非正規雇用で働かざるを得ない状況の人々(不本意非正規雇用)の割合も、非正規社員全体の11.6%(2019年平均)にのぼっています。
非正規社員は、正社員に比べて賃金だけでなく教育訓練などの実施率も低く、大きな格差につながっていることが度々指摘されてきました。
同一労働同一賃金の実現によって、こうした課題の解消も期待されています。
賃金の動向
国内における賃金の動向について、独立行政法人労働政策研究・研修機構が詳しく分析しています。
ここ最近のコロナ禍を踏まえ、直近では回復傾向を示しているようです。
最低賃金について
「最低賃金」制度とは、最低賃金法に基づいて賃金の最低額を定めたものであり、使用者は労働者に対して最低賃金額以上の賃金を支払う義務があります。
仮にある会社が、最低賃金額より低い賃金を労働者と使用者双方合意の上で定めても、法律上無効となり、最低賃金額と同様の定めをしたものとみなされます。
使用者が労働者に最低賃金未満の賃金しか支払っていない場合は、その差額を支払う必要があり、支払わない場合には最低賃金法によって罰則(50万円以下の罰金)が定められています。
なお、特定(産業別)最低賃金額以上の賃金額を支払わない場合には、労働基準法に罰則(30万円以下の罰金)が規定されています。
参照:厚生労働省
将来の方向性
「雇用形態がどうであれ、公正な待遇を求める」という理念と方向性は、従来の日本における労働条件の曖昧(あいまい)さや不透明さに問題点を投げかける、正しい理念です。
今後、事業主(使用者)側は、仕事内容が同じであれ、労働者を同じ待遇にするという公正な考え方に基づいた対応をしていく必要があります。現状、日本の役員を除く雇用者数 5,660万人のうち2,165万人(約38%)が非正規労働者という数字は、無視できない状況です。
公正な評価
従来、社会的にみて公正な状況とは言い難かった契約社員やパートタイマーの待遇が見直されれば、重要な労働力である非正規雇用労働者のモチベーション向上や、人材確保につながることが期待されます。一方、企業にとっては人件費削減という課題に直面していることも現実としてあります。こうした状況下、単に従業員の待遇を見直すだけではなく、職場・社員の生産性を高める取り組みもあわせて実施する必要があります。
あくまで業務は効率性を重視し、単に人員を増やすだけではなく、必要な業務のために人材投資をしていくことがポイントです。また、単純に非正規雇用労働者の待遇を引き上げるだけではなく、現状の正社員の待遇も同時に見直す必要があります。
新たな価値観
同一労働同一賃金が当然のこととなれば、将来的には正社員・非正規雇用労働者という、名称による区分は意味がなくなります。それよりも労働者一人ひとりのスキルや成果が重要な評価区分となる時代となります。
最近みられる「脱・年功序列賃金、脱・一律ベースアップ」といった動きも、同一労働同一賃金の実現と同根にあります。今後、企業がさらに競争力を高めて存続していくためには、雇用形態・賃金体系や、人事評価制度・労働環境などを、広い視野に立って、次世代への普遍的な価値へと昇華させる必要があります。
今回示されたガイドライン法改正は、こうした課題を改善させるきっかけとなり、単に企業側への負担増と捉えるのではなく、次世代の人事制度の設計と考え、前向きに取り組むことが重要です。
最後に
同一労働同一賃金が完全に履行されるまでにはまだ一定の時間がかかると想定される反面、将来へ向けた正しい方向性を考えた場合、現状の労働環境を速やかに見直していく努力が必要となります。
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