企業の成長は喜ばしいことですが、売上が拡大すると仕入れや在庫、人件費などの支出も増加するので、適切な資金管理が求められます。特に、成長に伴って必要となる「増加運転資金」の理解は不可欠です。
この記事では、増加運転資金の基本的な概念から増加の原因、計算方法を解説します。事業者の方は、自社の健全な成長および安定した資金繰りの参考にしてください。
増加運転資金とは?
企業が売上を拡大する際、追加で必要となる資金を「増加運転資金」と呼びます。売上の増加は喜ばしいことですが、同時に仕入れや在庫、人件費などの支出も増加し、これらを賄うための資金が必要です。
多くの場合、売上代金の回収には一定の期間がかかり、その間の資金繰りを確保しなければなりません。よって、売上拡大に伴う「増加運転資金」を適切に管理しなければ、黒字であっても資金不足に陥るリスクがあります。
増加運転資金の計算方法
増加運転資金の計算方法のひとつとして、以下の式が用いられます。
増加運転資金 = (売上債権回転期間 + 棚卸資産回転期間 − 買入債務回転期間) × 売上増加後の1日あたりの売上高
※売上債権回転期間:売掛金の回収に要する期間
※卸資産回転期間:在庫が販売されるまでの期間
※買入債務回転期間:仕入代金の支払いまでの期間
これらの期間を考慮することで、売上増加に伴って必要な追加資金の見積りが可能です。
また、別の方法として、以下の式も活用されています。。
増加運転資金 = 売上高増加予想額 × 収支ズレ
収支ズレとは資金の立替期間を示すもので、運転資金を月商で割ることで算出されます。この方法により、売上増加に伴う資金繰りのズレを定量的に把握し、適切な資金計画を立てることが可能です。
これらの計算式を活用し、増加運転資金を正確に算出すれば、企業の健全な成長と安定した資金繰りの維持に役立つでしょう。
増加運転資金が増える原因
企業の成長や事業拡大に伴い、運転資金の需要も増加します。その主な原因は、以下の5つです。
- 仕入れの増加
- 在庫の増加
- 売掛金の増加
- 固定費の増加
- 売上債権回転期間の長期化
仕入れの増加
売上の拡大に伴い、需要に応じて商品や原材料の仕入れ量も増加します。例えば、製造業では生産量を増やすために原材料の調達が不可欠です。また、小売業では販売量の増加に対応するために、商品の仕入れを増やします。
この結果、仕入債務が増加し、支払いまでの期間に立て替える資金、すなわち増加運転資金が必要となります。適切な資金管理を行わないと、資金繰りが厳しくなるリスクは否めません。
在庫の増加
売上の拡大に伴い、需要に迅速に対応するためには在庫の増加が必要となります。しかし、在庫が増えると、現金化までの時間が長くなり、その間の運転資金が多く必要となるでしょう。
さらに、在庫の増加は保管スペースの拡大や管理費用の増加を招き、これらのコストも運転資金の増加要因となります。適正在庫を維持し、過剰在庫を避けることが、資金繰りの健全化に重要です。
売掛金の増加
販売の拡大に伴い、売掛金の総額も増加します。売掛金は、商品やサービスの提供後、代金回収までの期間に資金が拘束されるため、運転資金の増加要因となるでしょう。
特に、取引先との信用取引が増えると、売掛金の回収期間が長期化し、資金繰りに影響を及ぼす可能性があります。売掛金の管理を徹底し、回収期間の短縮や与信管理の強化が求められます。
固定費の増加
企業の成長過程では、業務量の増加に対応するためには、人員の増加や設備の拡充が必要です。これに伴い給与や賃料、光熱費などの固定費が増加し、運転資金の需要が高まります。
特に固定費は、一度増加すると削減が難しく、資金繰りに大きな影響を与えかねません。そのため、新たな固定費の発生時には、慎重な判断と計画的な資金管理が求められます。
売上債権回転期間の長期化
売上債権回転期間とは、売掛金や受取手形などの売上債権を現金化するまでの期間です。長期化すると、資金が回収されるまでの間、運転資金が拘束されるため、資金繰りが厳しくなります。
特に、取引先の支払い条件や市場の変化により回収期間が延びると、手元資金の不足や貸し倒れリスクが高まる傾向が強いです。したがって、売上債権回転期間の管理と短縮化は、健全な資金循環を維持する上で重要な課題となります。
増加運転資金の調達方法
売上の拡大や事業の成長に伴い、増加する運転資金を適切に調達することは、企業の健全な経営にとって欠かせません。増加運転資金の主な調達方法は、以下の4つです。
・銀行融資
・制度融資
・日本政策金融公庫
・ファクタリング
銀行融資
銀行融資は、増加運転資金の調達方法として最も一般的です。特に、売上の増加に伴う前向きな資金需要である増加運転資金は、銀行からの融資を受けやすい傾向があります。
というのも、売上拡大により企業の成長を期待できることで、銀行側も積極的に支援を行うケースが多いためです。中小企業や個人事業主の場合、地方銀行や信用金庫など地域密着型の金融機関が適している場合が多く見られます。
これらの金融機関は、地元企業の状況を熟知しており、柔軟な対応が期待できるでしょう。また、日本政策金融公庫などの公的機関も、中小企業向けの融資制度を提供しており、増加運転資金の調達先として検討する価値があります。
制度融資
制度融資とは、地方自治体、金融機関、信用保証協会が連携して中小企業や個人事業主に資金を提供する仕組みです。信用力や担保が不足している事業者でも、信用保証協会の保証を受けることで金融機関から融資を受けやすくなります。
制度融資の特徴として、長期かつ低金利での資金調達が可能である点が挙げられます。しかし、自治体や信用保証協会、金融機関との間での手続きや審査が必要となるため、資金が実際に手元に入るまでに時間がかかる傾向にある点には注意が必要です。
日本政策金融公庫
日本政策金融公庫(日本公庫)は、政府が全額出資する政策金融機関であり、中小企業や小規模事業者、農林漁業者などへの資金供給を通じて国民生活の向上に寄与しています。
その役割は、民間金融機関の補完として、一般の金融機関では対応が難しい分野や条件での融資を行うことです。日本公庫の特徴として、低金利での融資が可能である点が挙げられます。
また、直接融資を行うため、担保や保証人が不要な場合もあり、資金調達の選択肢として有力です。ただし、融資の申請から実行までには一定の審査期間が必要となるため、資金需要を見越して早めの対応が求められます。
ファクタリング
ファクタリングとは、企業が保有する売掛債権をファクタリング会社に売却し、支払期日前に現金化する資金調達方法です。
この手法は、売上増加に伴い一時的に必要となる増加運転資金の調達に有効であり、特に増加分が小さい場合や短期間での資金需要に適しています。また、融資とは異なり負債として計上されず、財務状況への影響を最小限に抑えることが可能です。
ファクタリングの利用により、売掛金の回収期間を短縮し、キャッシュフローの改善が期待できます。ただし、手数料が発生するため、コスト面での検討が必要です。
なお、売掛先の信用状況によっては、ファクタリングの利用が制限される場合もあるため、事前の確認が重要です。
まとめ
増加運転資金とは、企業の売上拡大や事業成長に伴い、追加で必要となる運転資金を指します。売上の増加により、仕入れや在庫、売掛金、固定費などが増加し、これらが運転資金の増加の主な原因となります。
増加運転資金の主な調達方法には、銀行融資、制度融資、日本政策金融公庫からの融資、ファクタリングなど様々なものが選択肢として挙げられます。各方法には異なる特徴やメリット・デメリットがあるため、企業の状況や資金需要に応じて最適な手段を選択しましょう。
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