中小企業や個人事業主の事業承継問題が深刻化する中、新たな解決策として注目を集めているのが『スモールM&A』です。
従来の大規模なM&Aとは異なり、小規模企業間での事業譲渡や買収を指すスモールM&Aは、円滑な事業承継や新規事業参入の有効な手段として期待されています。
この記事では、スモールM&Aの基本的な概念から、そのメリット・デメリット、そしてサポートを受けられる依頼先などを解説します。
スモールM&Aとは?
スモールM&Aと一般的なM&Aの比較は次のとおりです。
項目 |
スモールM&A |
一般的なM&A |
譲渡対価 |
1,000万円〜1億円程度 |
1億円超 |
対象企業規模 |
売上高1,000万円〜5億円程度 |
中堅〜大企業 |
従業員数 |
数人〜30人程度 |
数十人以上 |
手続きの複雑さ |
比較的簡素 |
複雑、高度な専門知識が必要 |
成約までの期間 |
短期(3〜6ヶ月程度) |
長期(6ヶ月〜1年以上) |
デューデリジェンス |
限定的・簡略化される傾向 |
広範囲・詳細 |
スモールM&Aとは、小規模な事業や会社を対象とした買収・売却を指します。明確な法的定義はありませんが、一般的に譲渡対価は1,000万円から1億円以下とされています。
また、売上高が1,000万円から5億円程度、従業員数が数人から30人程度の企業が対象です。
スモールM&Aは、中小企業の事業承継問題の解決策としても、注目されています。
スモールM&Aの需要が高まっている背景
現在、スモールM&Aの需要が急速に高まっています。この背景にあるのは、以下の3つの要因があります。
・M&Aに対する認識の変化
・M&A支援サービスの充実
・金融機関の積極的な関与
M&Aに対する認識の変化
かつて、M&Aは買収や乗っ取りなどのネガティブなイメージが強くありましたが、近年では事業承継や経営資源の有効活用の手段として、ポジティブに捉えられています。
特に、後継者不足に悩む中小企業にとって、M&Aは事業の存続と発展を可能にする有力な選択肢です。
この変化には成功事例の増加や政府による啓発活動、相談窓口の設置などが寄与しています。経営者の間でM&Aに対する理解が深まり、積極的に活用する動きが拡大しているのです。
M&A支援サービスの充実
ひと昔前と比べて、中小企業や個人事業主向けのM&A仲介サービスが増加し、専門家へのアクセスが容易になっています。
特に、M&Aマッチングサイトの普及により、個人でも手軽に事業買収の機会が得られます。大企業中心だったM&A市場に、中小規模の事業者や個人が参入しやすくなりました。
金融機関の積極的な関与
地域金融機関が、地元企業の事業承継や経営改善を支援するため、M&A仲介に積極的に取り組むようになっています。
これらの金融機関は、取引先企業に対してM&Aに関する情報提供を行い、相談窓口を設置し、専門家との連携を図ることで、スモールM&Aの推進に取り組んでいます。
また、資金調達面でも、買い手企業に対する融資やファイナンスのアドバイスを行い、取引の円滑化を支援しています。
さらに、金融庁も地域金融機関の金融仲介機能の強化を推進しており、地域企業の経営課題解決に向けた取り組みを後押ししています。
スモールM&Aのメリット
スモールM&Aには、売り手と買い手の双方に多くのメリットがあります。
売り手側のメリット
売り手側の最も大きなメリットは、迅速な売却プロセスにあります。
スモールM&Aは取引規模が小さく、デューデリジェンス(DD:買収監査)の範囲も限定的で手続きが簡素化される傾向があり、通常のM&Aと比較して成約までの期間が短いです。
迅速な売却プロセスは、売り手にとって早期の資金化や次の事業展開へのスムーズな移行を促進します。 関係者の数や調整事項も少なく、締結までのプロセスがスムーズです。
買い手側のメリット
買い手側の主なメリットは、以下の3つです。
・コストと時間の削減
・複数案件の実施
・投資回収の容易さ
コストと時間の削減
スモールM&Aでは、取引金額が小さいため、買い手は初期投資を抑えられます。資金的な負担が軽減され、新規事業参入や事業拡大のハードルが下がるわけです。
また、規模が小さいためDDや交渉にかかる時間も短縮され、迅速な取引が可能で、買収後のPMI(Post Merger Integration:統合プロセス)も比較的容易に進められます。
複数案件の実施
スモールM&Aでは、1件あたりの投資額が小さいため、資金力のある企業は複数の買収を同時に進めることが可能です。短期間で事業規模の拡大や多角化が図れます。
また、複数の案件を実施することで、リスクの分散も期待できるでしょう。 さらに、各案件で得られるノウハウや経験を活かし、次のM&Aに活用できます。
投資回収の容易さ
スモールM&Aでは、買収金額が抑えられるため、投資回収期間が短くなる傾向があります。買い手は早期に投資資金を回収して、収益を得ることが可能です。
とりわけ、収益性の高い事業や成長性のある市場に参入する場合、投資回収のスピードはさらに速まります。 また、投資回収の容易さは、企業の財務健全性の維持にも有益です。
早期の投資回収により、次の投資や事業拡大に必要な資金を迅速に確保できます。
これらのメリットが、スモールM&Aを選択する買い手にとっての大きな魅力となっています。
スモールM&Aのデメリット
スモールM&Aには、上記のように売り手と買い手の双方にメリットがありますが、デメリットも知っておく必要があります。
売り手側のデメリット
売り手側の主なデメリットは、以下の2つです。
・交渉での不利
・仲介手数料の相対的な負担増
交渉での不利
小規模企業や個人事業主は、M&Aの経験や専門知識が不足していることが多く、交渉の場で不利な立場に立ちやすいです。取引条件が売り手にとって不利になる可能性があります。
仲介手数料の相対的な負担増
スモールM&Aでは取引金額が小さいため、仲介手数料が売却額に対して相対的に大きな割合を占めます。
特に、財務基盤が弱い小規模企業にとって、この手数料負担は特に重くのしかかります。
買い手側のデメリット
買い手側の主なデメリットは、以下の2つです。
・情報不足・情報精度の問題
・認識のずれによるリスク
情報不足・情報精度の問題
小規模企業は一般的に内部管理体制が不十分なため、買い手側は正確な企業情報の入手に苦慮することがあります。具体的には、財務諸表の精度が低い、経営計画が未整備、取引先との契約書が適切に保管されていないなど、買収判断に必要な基礎情報が不足しがちです。
買収対象企業の実態を正確に把握することが困難となり、価格の妥当性や買収後に発生するリスクについて、疑問や不安が残りがちです。
認識のずれによるリスク
スモールM&Aでは取引規模が小さいことから、DDが簡略化される傾向があります。短期間で契約締結に至るがゆえの、買い手と売り手の間の認識のずれによるリスクは否めません。
例えば、未確認の簿外債務や法的問題、人材の流出などが後に明らかになるケースがあります。このリスクの軽減には、DDの徹底と緊密なコミュニケーションが不可欠です。
スモールM&Aの依頼先
スモールM&Aを検討する際、適切なサポートを得ることが成功の鍵となります。スモールM&Aの主な依頼先は、以下の5つです。
・M&Aマッチングサイト
・M&A仲介会社
・専門家事務所
・事業承継・引継ぎ支援センター
・商工会議所
M&Aマッチングサイト
M&Aマッチングサイトは、インターネット上で売り手と買い手を直接つなげるプラットフォームです。手軽に利用でき、幅広い案件情報にアクセスできる点が魅力です。
M&A仲介会社
M&A仲介会社は売り手と買い手の間に立ち、交渉や手続きのサポートを提供します。小規模企業の案件に特化した仲介会社も存在し、専門的知識と経験で円滑な取引を支援します。
専門家事務所
弁護士、税理士、会計士などの事務所は法務、税務、財務の各分野で専門的なサポートを提供します。契約書作成や税務の最適化など、M&Aにおける各段階で適切な助言が得られるでしょう。
事業承継・引継ぎ支援センター
各都道府県に設置された公的機関として、中小企業の事業承継やM&Aに関する無料相談に対応しています。専門家の助言や支援機関の紹介など、総合的なサポートが得られます。
商工会議所
地域の中小企業に、M&Aや事業承継に関する相談窓口を設けています。商工会議所のネットワークの活用で、適切な買い手や売り手の紹介を受けることも可能です。
まとめ
スモールM&Aは中小企業や個人事業主にとって、事業承継や新規事業参入の有効な手段です。メリットとして迅速な売却プロセスやコスト削減、投資回収の容易さが挙げられます。
一方で、交渉力や情報精度の問題などのデメリットも存在します。スモールM&Aを円滑に進めるためには、M&Aマッチングサイトや仲介会社、専門家事務所などの活用がおすすめです。