企業の資金調達手段は多岐にわたりますが、「債権流動化」は1990年代から制度が整備され、金融危機以降、特に2010年代からオフバランス化や資金調達の多様化を求める企業にとって重要な選択肢となっています。
売掛金や受取手形などの債権を活用し、資金繰りを改善するこの手法は、企業規模を問わず幅広く活用されています。しかし、債権流動化にはメリットだけでなく、リスクも存在します。
そこでこの記事では、債権流動化の基本概念や主要な4つの方法、メリットやリスクなどについて解説します。
債権流動化とは?
債権流動化とは、企業が保有する売掛債権を期日前に現金化する資金調達方法を指します。例えば売掛金、受取手形、電子記録債権、診療報酬債権などを第三者(金融機関やファクタリング会社など)に譲渡または担保として提供し、即時に資金を得る手法です。
この方法により企業は資金繰りを円滑にし、キャッシュフローの改善を図れるようになります。特に、売掛金の回収期間が長期化する場合や、急な資金需要が発生した際に有効な手段として利用されています。
債権流動化の主な方法は、「ファクタリング」「手形割引」「売掛債権担保融資(ABL)」「売掛債権証券化」の4つです。これらの手法はそれぞれ特徴や適用場面が異なり、企業の状況やニーズに応じて選択されます。
債権流動化のメリット
債権流動化の主なメリットは、以下の5つです。
1. スピーディな資金調達
2. 審査のハードルが低い
3. オフバランス効果
4. 資金繰りの改善
5. 資金調達手段の多様化
スピーディな資金調達
債権流動化の中でも、ファクタリングや手形割引は迅速な資金調達手段として知られています。これらの方法を利用することで、最短即日での資金調達が可能となり、企業のキャッシュフローを迅速に改善できます。
特に、2社間ファクタリングでは、売掛先への通知が不要であり、手続きが簡便でスピーディーです。よって、急な資金需要にも柔軟に対応することが可能となります。
審査のハードルが低い
銀行融資と比較して、債権流動化の審査通過は比較的容易であることが特徴です。これは、売掛債権という担保が存在するため、金融機関やファクタリング業者にとって回収リスクが低減されるからです。
また、債権流動化では依頼者自身の信用力よりも、売掛先企業の信用力が重視されます。そのため、依頼者の財務状況が厳しい場合でも、売掛先が信用力の高い企業であれば、審査に通過しやすい傾向があります。
オフバランス効果
債権流動化を活用すると、貸借対照表上の資産や負債を減少させる「オフバランス効果」が得られ、財務状態の改善が期待できます。
特に譲渡型ファクタリングでは、売掛債権を金融機関やファクタリング会社に完全に譲渡することで、貸借対照表上から売掛金を除外できます。
また、債権の証券化(セキュリティゼーション)においても、適切な条件を満たせばオフバランス処理が可能です。これらの取引は会計上「真正売買」と認められることで、バランスシートから債権を除外することが可能になります。
具体的には、自己資本比率の向上や総資産利益率(ROA)の改善につながります。これらの指標の改善は、企業の信用力と評価を高める要因となります。
資金繰りの改善
債権流動化を利用すると、売掛金などを決済期日を待たずに現金化が可能で、キャッシュフローの早期改善が図れます。
キャッシュフローが改善されることで資金繰りが円滑になり、経営の安定性が高まるでしょう。その結果、企業は迅速な意思決定や投資活動が可能となります。
資金調達手段の多様化
債権流動化は、従来の銀行融資や社債発行以外の資金調達手段として活用が可能であり、企業の資金調達戦略の幅を拡げるものです。
多様な資金調達手段を持つことで、経済環境の変化や突発的な資金需要に柔軟に対応でき、企業の持続的な成長と競争力の維持が可能となります。
債権流動化のリスク
債権流動化の主なリスクは、以下の2つです。
1. 資金調達コストの高さ
2. 未回収リスクと弁済義務
資金調達コストの高さ
債権流動化の手法によっては、資金調達コストが高くなる傾向があります。特に、ファクタリングを利用する際の手数料の率は、通常の銀行融資(年率1.5〜3.0%程度)と比較して高くなる場合があります。
特に以下のようなケースではコストが割高になりやすい傾向があります。
・少額の債権を流動化する場合(固定手数料の影響が大きくなる)
・信用力の低い売掛先の債権を流動化する場合(リスクプレミアムが上乗せされる)
・短期間で急ぎの資金調達を行う場合(緊急性に対する割増料金が発生)
これらのコストは、企業の利益率に影響を及ぼす可能性があるため、資金調達手段を選択する際には十分に考慮することが重要です。
未回収リスクと弁済義務
債権流動化の種類によっては、売却した債権が未回収となった場合、企業がそのリスクを負う可能性があります。特に、リコース契約の場合、債権が回収不能となった際に、企業が弁済義務を負う場合が少なくありません。
なお、リコース契約とは債務者から債権を回収できないときに、さかのぼって直接請求できる契約です。償還請求権や遡求権(そきゅうけん)とも呼ばれます。
このようなリスクを回避するためには、ノンリコース契約を選択するなど、契約内容を十分に確認するのが賢明です。また、取引先の信用力を事前に評価し、未回収リスクを最小限に抑える努力も欠かせません。
債権流動化の主な方法
債権流動化の主な方法は、以下の4つです。
1. ファクタリング
2. 手形割引
3. 売掛債権担保融資(ABL)
4. 売掛債権証券化
これらの特徴や実行スピードなどを比較すると、次のとおりです。
手法 |
特徴 |
実行スピード |
コスト |
リスク |
適した企業規模 |
ファクタリング |
売掛金を売却して現金化。売掛先への通知有無で2社間/3社間に分類 |
最短即日 |
比較的高い |
契約形態によって異なる(リコース/ノンリコース) |
中小企業〜大企業 |
手形割引 |
手形を決済期日前に売却して現金化 |
短期(数日 |
中程度 |
不渡りリスク |
中小企業〜大企業 |
売掛債権担保融資(ABL) |
売掛債権を担保に資金借入 |
中期(審査に時間) |
比較的低い |
担保価値変動リスク |
中小企業〜大企業 |
売掛債権証券化 |
売掛債権を証券化し投資家に売却 |
長期(準備に時間) |
高い(初期コスト) |
証券化コストや複雑性 |
主に大企業 |
ファクタリング
ファクタリングは、企業が保有する売掛金をファクタリング会社に売却し、早期に現金化するサービスです。この方法は、売掛先の信用力が重視されるため、利用企業の審査が比較的容易であることが特徴です。
ファクタリングには主に2つの形態があります。
・2社間ファクタリング
売掛先に通知せずに利用でき、取引先との関係を維持したまま資金調達が可能
・3社間ファクタリング
売掛先に通知する形式で、債権の確実性は高まるが取引関係に影響する可能性がある
いずれの形態でも、ファクタリングを利用することで最短即日での資金調達が可能となり、迅速なキャッシュフロー改善が期待できます。
手形割引
手形割引は企業が受け取った手形を決済期日前に銀行や手形割引業者に売却し、現金化する方法で、資金繰りの改善を図る手段のひとつです。
ただし、手形が不渡りとなった場合、手形割引を利用した企業が弁済義務を負うリスクがあるため、注意を要します。
売掛債権担保融資(ABL)
売掛債権担保融資(ABL)は、企業が保有する売掛債権を担保にして金融機関から資金を借り入れる手法です。この方法では、売掛債権や在庫などの動産を担保にできるので、不動産を持たない企業でも利用できます。
また、担保として設定した売掛債権は、引き続き企業が利用できるため、業務運営に支障をきたすことなく資金調達が可能です。ただし、審査には時間がかかる場合があり、赤字経営の企業は審査に通らない可能性があります。
売掛債権証券化
売掛債権証券化は、企業が保有する売掛債権をまとめて証券化し、投資家に売却することで資金を調達する方法です。企業は売掛金の早期回収が可能となり、キャッシュフローの改善が期待できます。
ただし、この手法を実施するには、次のような要件が必要となります。
・一定規模以上の債権プールが必要(通常、数億円以上)
・債権の質や分散度に関する基準を満たす必要がある
・多くの場合、格付機関からの評価取得が必要
また、手続きが複雑でコストがかかる場合があるため、企業の状況に応じて適切な資金調達手段を選択することが重要です。
まとめ
債権流動化は企業が保有する売掛債権の早期の現金化により、資金繰りの改善や財務状態の向上を図る手法です。主な方法にファクタリング、手形割引、売掛債権担保融資(ABL)、売掛債権証券化などがあり、それぞれ特徴とメリット・デメリットがあります。
これらの手法を活用することで、企業は資金調達手段の多様化やキャッシュフローの改善を実現できます。しかし、各手法には特有のリスクやコストが伴うため、企業の状況やニーズに合わせて適切な方法を選択することが重要です。
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