現物出資とは?出資が認められる資産の例やメリット・デメリットを解説

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会社設立時に手元の資産を活用して現金以外の資産を出資できる「現物出資」は、資本金を増やす効果的な手法です。しかし、現物出資には特有の手続きや注意点が存在します。

この記事では、現物出資の概要や認められる資産の例、現物出資のメリット・デメリットについて解説します。

現物出資とは?

会社設立や増資の際に、金銭ではなく不動産や有価証券などを出資する方法です。この方法を使えば、手元の現金が少ない場合でも資本金を増やすことができます。

ただし、実行の際には出資する資産の適正な評価が必要です。特に、資産の価値が500万円を超える場合などは、裁判所が選任する検査役の調査が求められる場合があります。

現物出資が認められる資産の例

現物出資に使える資産は、譲渡ができて貸借対照表(バランスシート)に資産として計上できるものです。大きくは、有形資産と無形資産、およびその他の資産に分かれます。

 

有形資産

有形資産は、現物出資として認められる代表的な資産です。大きくは動産と不動産に分かれます。

▼動産の例
・商品
・半製品
・原材料機械設備
・器具備品
・事務用品・OA機器
・車両 

▼不動産の例
土地
建物
・地上権
借地権
・賃借権

 

無形資産

無形資産の例としては、以下のようなものが挙げられます。

営業権(のれん)
・特許権
・商標権
・著作権

営業権(のれん)
企業が培ってきた信用やブランド力、顧客基盤など、目に見えない価値を指します。企業結合時には、取得企業が支払う対価が、被取得企業の純資産の時価を超える部分として計上されます。

特許権
新しい発明に対して与えられる独占的な権利で、一定期間、その技術の使用を管理する権利を有します。発明者は投資回収や、技術の普及を図ることができます。

商標権
商標権商品やサービスを他と区別するための名称やロゴ、マークなどを保護する権利です。ブランドの信用維持や模倣防止が可能となります。

著作権
文学、音楽、美術などの創作物に対して自動的に発生する権利で、創作者の利益を保護します。他者による無断使用を防ぎ、創作活動の促進を目的としています。

 

その他の資産

その他の資産は以下のとおりです。

有価証券(株式など)
・債権
・知的財産権
・会員権
・有価証券(株式など)

市場で取引される株式や債券など、価値を有する証券です。企業の資産として計上され、資金調達や投資の手段となります。

債権
他者に対する金銭や物品の請求権を指します。貸付金や売掛金などが該当し、企業の資産として評価されます。

知的財産権
特許権、商標権、著作権など、知的創作物に関する権利の総称です。企業の競争力を高める重要な資産となります。

会員権
ゴルフクラブやリゾート施設などの利用権を指します。市場で取引可能なものは資産として評価され、現物出資の対象となります。

これらの資産は、適切な評価と手続きを経ることで、会社設立時の資本金に組み入れることが可能です。

現物出資のメリット

この手法には、主に4点のメリットがあります。

1. 資本金を増やせる
2. 資金がなくても発起人になれる
3. 減価償却による節税効果につながる
4. 備品調達コストを削減できる

 

資本金を増やせる

手元の現金が少なくても、資本金を増やせます。資本金が増加すると会社の社会的信用が高まり、取引先や金融機関からの評価の向上が期待できるでしょう。

とりわけ、創業間もない企業にとっては、資本金の増加は事業の安定性を示す大切な要素です。新たな取引先の開拓や融資の獲得が、スムーズに進む可能性が高まります。

 

資金がなくても発起人になれる

手元に現金がなくても、会社を設立できます。資金不足で起業をあきらめていたかたでも、保有する資産を有効活用して発起人となる道が開けるのです。

特に、個人事業主が法人化を検討する際、有効な手段となります。

 

減価償却による節税効果につながる

会社が取得した資産は固定資産として計上され、法定の耐用年数にもとづき減価償却を行えます。課税所得の減少を通じて節税効果が期待できるでしょう。

特に、高価な資産の場合、その減価償却費は大きな経費計上となり、法人税の負担軽減効果が高まります。

現物出資の注意点

資本金を増やすための有効な手段ではある現物出資ですが、次に挙げる注意点もあります。

資本金額と現金とのギャップ
・手続きの煩雑さ
・不足額を支払う義務

 

資本金額と現金とのギャップ

現物出資を行うと、資本金は増加しますが、実際に会社が自由に使える現金は増えません。そのため、資本金額に比して運転資金として利用できる現金が不足する可能性があります。

このギャップを埋めるためには、現物と現金のバランスを考慮し、適切な資金計画を立てる姿勢が大切です。

 

手続きの煩雑さ

現物出資は、現金出資と比較して手続きが複雑で、多くの手間がかかります。

具体的には、定款に現物出資に関する詳細な記載が必要となり、資産の種類や価額、提供者の情報などを明記しなければなりません。

さらに、出資する資産の適正な価値を証明するための証明書を取得する必要があります。

また、不動産や車両などを提供する場合は、所有権の移転手続きも必要となり、これらの手続きが全体の負担を増加させるかもしれません。

 

不足額を支払う義務

現物出資した資産の実際の価値が、定款に記載された価額に著しく不足している場合があります。その際に発起人は、不足額を連帯して支払う義務を負わなければなりません。

現物出資による会社設立の手順

現物出資を活用して会社を設立する際には、特有の手続きが求められます。手順は次のとおりです。

1. 提供する資産の価格調査
2. 定款への記載
3. 必要書類の作成
4. 法務局への書類提出

 

1. 提供する資産の価格調査

まず出資する資産の時価、すなわち現在の市場価格の正確な把握が欠かせません。資産の適正な評価が、会社の資本金額に直接影響を及ぼすためです。

例えば、自動車を現物出資する場合、車種や年式、走行距離などの情報をもとに、インターネット上の中古車市場価格を調査する方法があります。

 

2. 定款への記載

現物出資を行う際には、以下の項目を正しく定款に記載する必要があります。これらの情報を正確に記載することにより、出資内容の透明性と信頼性を確保できます。

提供する人の氏名と住所
・資産の詳細情報
・資産の価額
・提供者に割り当てる設立時発行株式の数

 

3. 必要書類の作成

以下の書類を適切に作成する必要があります。

調査報告書
提供する資産の価額が適正であるかを設立時取締役が調査し、その結果をまとめたものです。

財産引継書
提供者から会社へ資産が正式に引き渡されたことを証明する書類で、これらは設立登記申請時に必要となります。

資本金の額の計上に関する証明書
資本金として計上されたことを、客観的に証明するための書類です。

これらの書類を正確に整備することで手続きが円滑に進み、会社設立が適切に行われます。

 

4. 法務局への書類提出

作成した「調査報告書」や「財産引継書」は、株式会社設立登記申請書に添付する必要があります。また、現物出資に関する事項を記載した定款も併せて提出しなければなりません。

これらの書類を揃えた上で、会社の本店所在地を管轄する法務局に提出します。提出方法は、書面による持参や郵送、またはオンライン申請が可能です。

まとめ

現物出資は、現金以外の資産を活用して資本金を増やす有効な手段です。資金が乏しい場合でも、発起人となって会社を設立したり増資したりが可能となります。

しかし、手続きの煩雑さや資産評価の適正性など、注意すべき点も少なくありません。この方法を検討する際は、メリットとデメリットを理解し、適切な準備を進めていきましょう。

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