企業の経営戦略において、少数株主の存在が意思決定のスピードや効率性に影響を及ぼすことがあります。このような状況で、企業が少数株主を強制的に退出させる手法が「スクイーズアウト」です。
上場企業の完全子会社化や非公開化の際によく用いられるこの手法について、、概要から、その目的やメリット・デメリット、さらに具体的な実行手法や手続きの流れまでを解説します。
スクイーズアウトとは?
スクイーズアウトとは企業が少数株主から強制的に株式を取得し、株主構成を整理する手法です。迅速な意思決定や経営の効率化を目的として、M&Aや事業承継の場面で活用されます。
スクイーズアウトを実行するためには、通常、企業が議決権の3分の2以上を所有している必要があります。具体的な手法としては、株式併合や株式等売渡請求などがあり、状況に応じて適切な方法が選択されます。
スクイーズアウトの目的・メリット
スクイーズアウトには主に以下のような目的やメリットがあります。
・意思決定の迅速化
・長期的視点での経営
・株式の集約
・事務処理の削減
・株主代表訴訟リスクの削減
・連結納税制度の利用
意思決定の迅速化
少数株主を排除することで、株主総会での決議がスムーズに進み、重要な意思決定を迅速に行えます。これにより、ビジネスチャンスを逃さず、経営リスクの低減が可能です。
また、少数株主との意見対立や調整に費やす時間や労力を削減でき、経営資源をより効果的に活用できます。
長期的視点での経営
スクイーズアウトにより、経営陣が短期的な株価変動や少数株主の意見に左右されることなく、長期的な視点で経営戦略を策定・実行できるようになります。
これにより、企業は持続的な成長や市場での競争力強化を目指した戦略的投資が可能です。
株式の集約
スクイーズアウトを通じて株式を集約することで、株主の相続による株式の細分化を防ぎ、経営の安定性を確保できます。また、M&Aの際の買収手続きや経営統合もスムーズに進めることができます。
事務処理の削減
スクイーズアウトにより株主数が減少すると、株主総会の招集通知や議決権行使書類の発送などの事務手続きが大幅に簡略化されます。事務処理にかかる時間やコストを削減し、経営資源を他の重要な業務に集中させることが可能です。
株主代表訴訟リスクの削減
スクイーズアウトを実施すれば、少数株主からの株主代表訴訟リスクを大幅に低減可能です。経営陣は訴訟リスクを気にせず、自由に経営判断できるようになります。
連結納税制度の利用
スクイーズアウトを通じて企業が完全子会社化を達成すると、連結納税制度の適用が可能となります。親会社と子会社の所得や損失を通算して課税所得を計算でき、グループ全体での税負担の最適化を実現できます。
また、グループ内の資金管理も効率化され、経営の柔軟性が向上します。
スクイーズアウトのデメリット
スクイーズアウトには以下のようなデメリットがあります。
・財務的負担
・法的リスク
・手続き上の制約
財務的負担
スクイーズアウトを実施する際、少数株主から株式を強制的に買い取るため、その対価の支払いが必要となります。
この対価は、公正な評価額にもとづいて算定されるため、高額になる可能性は否めません。
特に、対象企業の業績が好調で成長性が高いと評価額も高くなり、買収企業は多額の資金流出を余儀なくされます。財務負担が増大し、資金繰りに影響を及ぼす可能性があります。
法的リスク
スクイーズアウトを実施する際、少数株主が提供される対価や手続きの公正性に異議を唱え、裁判所に価格決定を求める訴訟を提起するケースがあります。
訴訟に発展した場合、法的手続きや弁護士費用による金銭的負担に加え、訴訟期間中の不確実性が企業活動に影響を及ぼす可能性があります。また、こうした事態は企業の信頼性や評判を損なうリスクにもつながります。
手続き上の制約
スクイーズアウトを実行するためには、特別支配株主として議決権の3分の2以上を保有していることが前提条件です。
また、株価の算定や開示書面の作成、取締役会や株主総会の開催など、法律で定められた厳格な手順を遵守する必要があり、これらを適切に進めるためには相当の時間と労力が必要です。
スクイーズアウトにおける4つの手法と手続の流れ
スクイーズアウトにおける4手法の比較は以下のとおりです。
手法名 |
主な特徴・利用場面 |
必要な議決権比率(目安) |
株主総会決議 |
手続きの迅速性(目安) |
株式等売渡請求 |
特別支配株主が少数株主から強制的に買い取る |
90%以上 |
不要 |
最も迅速 |
株式併合 |
複数の株式を1株に統合し、端株を買い取る |
3分の2以上 |
特別決議が必要 |
やや時間がかかる |
株式交換 |
完全親会社が完全子会社の全株式を取得する |
3分の2以上 |
特別決議が必要 |
やや時間がかかる |
全部取得条項付種類株式 |
全株式に取得条項を付け、会社が強制的に買い取る |
3分の2以上 |
特別決議が必要 |
やや時間がかかる |
スクイーズアウトを実施する際には、主に以下の4つの手法が用いられます。企業の状況や目的に応じて、それぞれの特徴や適用条件を考慮し、最適な手法を選択する必要があります。
・株式等売渡請求
・株式併合
・株式交換
・全部取得条項付種類株式
株式等売渡請求
特別支配株主(議決権の90%以上を保有)が利用できる手法です。株主総会の決議が不要なため、比較的迅速に実行できます。
手続きの流れ:
・特別支配株主が会社に売渡請求を通知
・会社が売渡請求を承認
・会社から少数株主へ通知
・指定された取得日に株式取得完了
株式併合
議決権の3分の2以上を持つ株主または賛同する株主がいる場合に利用可能な手法です。株式を一定の比率で併合し、結果として生じる端数株式を会社が買い取ることでスクイーズアウトを実現します。
手続きの流れ:
・取締役会開催(株式併合の決議と株主総会招集の決議)
・株主総会開催(特別決議で承認)
・株主への個別通知
・裁判所への売却許可申し立て
・株式併合の効力発生・株式の買い取り
株式交換
完全親会社となる会社が完全子会社となる会社の株式すべてを取得し、完全子会社の株主に対して親会社の株式を交付する手法です。株主総会の特別決議(議決権の3分の2以上の賛成)が必要です。
手続きの流れ:
・株式交換契約の締結
・株主総会開催(特別決議で承認)
・株式交換の効力発生
全部取得条項付種類株式
既存の普通株式に全部取得条項を付けることで、会社が株式全部を強制的に取得する手法です。定款変更と株主総会の特別決議が必要となります。
手続きの流れ:
・定款変更(種類株式発行会社への変更)
・全部取得条項の付加
・全部取得条項付種類株式の取得を決議
・株式の取得・少数株主への対価の交付
まとめ
スクイーズアウトとは、大株主が少数株主から強制的に株式を取得し、企業の意思決定を迅速化する手法です。
主なメリットとして経営の効率化や株式の集約、事務処理の削減などが挙げられます。一方で、財務的負担や法的リスク、手続き上の制約といったデメリットも存在します。
スクイーズアウトを実行する際は、各手法の特徴や手続きの流れを十分に理解し、適切な方法で進めましょう。